「グリーンIT」という言葉に対して、みなさんは今、どれくらい関心をお持ちだろうか。筆者の感触としては、地球温暖化問題を議論した2008年7月開催の「洞爺湖サミット」をピークに、徐々に関心が薄れていったように思う。現在でもグリーンITに関連した話題は出てくるが、2年前と比べると大幅に少なくなっている。

 こんな雰囲気に追い討ちをかけるかのように、この4月には、環境庁がややもすると楽観的な気分にさせる統計を公表した。日本における2008年度の温室効果ガス排出量(確定値)が前年度比で6.4%も減少したというのだ。

 2007年度は排出量が前年比2.4%増で、「京都議定書の削減目標の達成は極めて難しい。排出量取引で多額の出費が必要」などと騒がれていた。事態は急に好転したようにみえる。

 実際のところ、決して楽観はできない状況にある。環境省は温室効果ガスが大幅に減った主な理由として、深刻な景気悪化の影響を挙げる。生産活動が縮小し、エネルギー消費量が大幅に減ったのだ。この年が暖冬だったことも影響している。

 つまり、省エネが一気に進んだわけではないのである。これから景気が回復すれば(さほど十分な回復は見込めない状況だが)、また温室効果ガスが増えてくるに違いない。グリーンITへの取り組みはこれからが本番である。

クラウドはグリーンITに貢献できるか

 日本全体の話はさておき、IT業界に目を向けると、今後は「クラウドサービス」の行方がグリーンITに大きな影響を及ぼし得るという見方がある。そこにはプラスの影響とマイナスの影響があるようだ。

 プラスの影響は分かりやすい。クラウドサービスに利用されているデータセンターの多くは、高効率で省電力なIT機器や空調設備をそろえている。リソースプールの共有により利用効率をさらに高められる。そういう“グリーン”なデータセンターが提供するクラウドサービスを企業や個人が利用することで、アプリケーションを稼働させるのに必要な電力を削減できる可能性がある。

 一方で、クラウドサービスの普及は“グリーン”ではないデータセンターを増やす要因にもなり得る。これがマイナスの影響である。

 高効率で省電力なデータセンターを設計する技術力が不足しているケースや、クラウドサービスの低コスト化を目指すために、グリーンITの取り組みをおろそかにするようなケースが考えられる。GoogleやYahoo!のような事業者ばかりだと楽観してはいけないのだ。

 クラウドサービスを提供するデータセンターはそれなりの規模があり、温室効果ガス排出量への影響力が非常に大きい。データセンターのグリーン度には、今後さらに多くの関心が集まるだろう。

よりグリーンな選択をしているか?

 クラウドサービスの大手がひしめく米国での例を挙げよう。国際的な環境保護団体Greenpeace Internationalが3月末に公開したレポート「Make IT Green」は、ニューヨーク州に建設するYahoo!のデータセンターと、Facebookがオレゴン州に建設するデータセンターを比べると、グリーン度が大きく異なると指摘している。

 Facebookのデータセンターは、冷涼な外気を利用する空調・冷却システムを採用したり、サーバーからの排熱をオフィスの暖房に再利用したりするなど、エネルギー効率を高める取り組みをうたっている。ただし、契約した電力会社が提供する電力の大半は、安価だが温室効果ガスをたくさん排出する石炭で発電したものだとしている。

 これに対し、Yahoo!のデータセンターは主に水力発電による電力を利用する。このため温室効果ガスの排出量を劇的に減らせるという。

 発電の種類まで問うのは、日本の事情からすれば極端な話に聞こえるかもしれない。ただ、この例から学ぶべき点は、もっとグリーンな選択肢があり、他社はそれを選択しているのに、なぜ選ばなかったのか、ということだ。

 グリーンITと、コストをはじめとするその他の要素とのバランスは、非常に難しい経営問題である。均衡点を決めるのは、グリーンITに対するクラウドサービス事業者側の意識の高さであり、同時にサービス利用者側の意識の高さだろう。現在の関心の薄さを考えると、グリーンITへの道のりは、まだかなり長いと言わざるを得ないのかもしれない。