日経コンピュータの2010年5月26日号で、「まだ削れる/常識破りの運用コスト削減策」という特集を書いた。リーマン・ショック以降に“発明”された、従来の慣例にとらわれないコスト削減策を紹介したものだ。乾いた雑巾を絞り続けるように、数カ月単位で運用・保守費を削減する体制を整えた企業や、バックアップ回線をスパッと打ち切った企業などの事例を取り上げた。

 特集企画の一環で、アンケート調査を実施した。質問項目は大きく2点。「2009年度と2010年度の運用・保守費の増減」と「運用・保守コストのあり方や課題、普段考えていること」だ。前者の予算動向の結果は2010年4月28日号に掲載し、後者の自由記述は今回の特集で取り扱う予定だった。が、特集の記事構成を決めていく過程で自由記述を盛り込まないことにした。そこで、この場を借りてその結果を披露したい。調査対象は民間企業236社、調査期間は3月19日~3月31日である。

 「自社のシステム運用・保守に携わっている」回答者からの自由記述欄には、189件の意見が寄せられた。全部読んで感じるのは、運用・保守費について、実に多くの悩みと不満を抱えている、ということだ。189件のうち66.7%に当たる126件が悩み、不満、解決策が見えていない課題などについての記述だった。例えば以下のようなものだ。(明らかな誤変換と思われる記述は修正したが、基本的に原文のまま掲載している)

・過去数年間保守コスト削減をしてきたが、もうこれ以上手を入れられるものがなくなってきた。ハードウエアは老朽化もあり更新したいが投資が認められない状況であるため、解決策がない。

・社内システムの場合は、コストが発生しても請求がしにくく、ボランティア活動のようになってしまう。

・必要コストではあることは全員が認識しているが、明細の見える化が難しく、やろうとすると管理コストが発生してしまうため、適切な管理ができていない。

・以前に増して必要な業務やシステムにまでコストをかけられなくなっている現実があり、非常に厳しい思いをしています。

 ITベンダーに対する不満の声も寄せられた。126件の悩みや不安のうち39件がそれで、ほとんどが保守サービス料金が高いというものである。

・保守料は、割高だと感じています。保険みたいなものですが、もう少しどうにかならないかと思います。

・とにかく高い。ベンダーは初期導入費の安さをアピールしてくるが、保守料金の高さも最初にちゃんと説明してほしい。

・業務系ソフトは、バージョンアップ費用を含め保守費用として設定しているが、一度構築したらバージョンアップが必要とならない運用に対しても保守加入を勧める必要が本当にあるのか?疑問である。

 経営層の理解が得られない、社内要員のスキルが不足しているといった、社内の組織に対する不満も散見される。

・会社にとっての必要性に照らして、コストに見合う内容かどうか、線引きが難しい。運用・保守にかかるコストについての上層部の理解があまりに浅い。

・最低限のもので構成しているが、事業の継続性を考えた場合、もっと費用をかけたいと思う。経営ともっと議論が必要だとは感じている。

・個人に依存している部分が多くて、組織やグループ内で情報共有ができていない。

 悩みや不満のコメントを読み続けていると、だんだん気が滅入ってくる。運用・保守費を取り巻く厳しい現実の中で、運用・保守担当者は奮闘されているわけである。ではどうすれば、そうした現状を打開できるのであろうか。コメントの中から課題の解決策について言及してあるものを探した。すると、38件と少ないながらも解決のヒントになりそうな意見があった。

・お金がかかるからといってなにもしないでいるよりは、コストがかからなくてできることを少しでも考えた方がよい。

・災害リスクが高くならない限り設備を集約し、運用コストを削減する。

・お金はかけることにはかける必要があるが、無駄だと思うものは極力削減する。

 こうした取り組みを具体的に紹介していけば、悩みを抱えている多くの運用・保守担当者にとって参考になるはずだ。すべてのコメントを読み終わって筆者はそう思い、今回の特集にとりかかることにした。登場していただいた企業は、いずれも前向きにコスト削減に取り組んでいる。興味を持たれた方は、ご一読いただければ幸いである。