植物の生育環境を制御して安全・安心な植物を「生産(製造)」しようという「植物工場」が脚光を浴びている。とりわけ注目されるのは、植物工場を輸出産業として育てていこうという動きだ。リーマンショック以来の不況に製造業が苦しむ中で、新たな輸出産業として期待されている。果たして、植物工場は輸出産業になりうるのだろうか。長年植物工場の研究・普及活動に取り組んできた千葉大学名誉教授の古在豊樹氏に聞いた。

千葉大名誉教授の古在豊樹氏
千葉大名誉教授の古在豊樹氏

植物工場は今、「第3次ブーム」ということですが、なぜブームになっているとお考えですか。

 あなたのような工業分野の記者が私のような園芸分野の研究者に取材に来る、ということ自体が今まであまりなかったことで、これも一つの「ブーム」の側面でしょう。逆に聞きたいのですが、なぜ植物工場に興味を持ったのですか。

製造業がこれまで日本経済を引っ張ってきたわけですが、新興国の台頭やリーマンショックをきっかけとする世界的な需要急減などで厳しい状況に直面しています。私としては自動車や電機産業などの製造業が今後も牽引役であることには変わりないと思っていますが、一方でそれに代わる、または補完する新しい分野として「植物工場」の可能性があるのか、ということを知りたいと思いました。

 まず、「植物工場」は単なる「製造業」ではありません。私の解釈では、これまでの日本は、全体の流れとして、工業製品を輸出する見返りとして食糧を輸入してきたわけです。その結果、日本の食糧自給率は世界的に見て低くなってしまった。しかし、ここに来て、肝心要の工業自体が困り始めた。「このままじゃいかん、共倒れになってしまう」という危機感が、工業、農業の双方に出てきたのではないでしょうか。

そうした危機感が国の施策にも現れているということでしょうか。

 確かに、これまでの農業施策は、農林水産省が中心となって農家あるいは日本の農業を保護するという性格が強かったと思います。しかし、ここに来て、工業が変調を来たしたことから、産業としての農業の国際競争力を高めようという方向に風向きが変わってきました。そのための有効な手段の一つとして注目されているのが植物工場なのです。今回の第3次ブームがこれまでの1次や2次ブームと違うのは、経済産業省も乗り出してきて、日本の工業、農業、さらには商業の良さをうまく生かした「農商工連携」で、新しい産業を創り出さそうという機運が高まってきたことです。

植物工場を産業として育てるために、「農商工連携」が必要なのはなぜでしょうか。

 それは、植物工場産業が工業と農業の「中間的な存在」であるばかりでなく、環境産業、サービス業、知識産業、医療・介護・福祉を含む健康産業などを統合した、環境健康産業ともいうべき新しい産業となる可能性が広がっているからです。

「中間的」ということは、「工業でも農業でもない」、という風にも聞こえます。

 そうですね。21世紀社会の新しい価値観に対応する新しい概念と方法にもとづく産業の創出です。植物工場には太陽光利用型と人工光利用型がありますが、特に日本が得意な人工光利用型植物工場では、日本の製造業が培ってきた光源、空調、計測制御、節電、断熱、情報に関する技術が生かされていています。その意味では「工業的」ですが、一方で植物を育成する(生産する)ということ自体は生命現象ですから、農業・農学が培ってきた栽培技術やノウハウが必要とされるので、「農業的」です。どちらを欠いても成り立たないだけでなく、それらを超えた新しい産業分野だと言えます。「製造」はmanufactureですが、農業で言う「生産」はgrow(育成)です。製造業で言う「原料」は「種子や植物片」であり、原料が変換・組み合わされて製品になるだけではなく、生産過程が生命現象なのです。