筆者が若かりしころ、上司というものは、とにかく怖い存在でした。上司の机の前に立たされて、長々と説教をくらうのが日課でした。

 そのときは嫌な上司だと思いましたが、今は心から上司に感謝しています。あのとき、上司が叱ってくれたからこそ成長できた---そう思えるからです。今回は、筆者の心に深く刻み込まれている上司の言葉(叱り文句)をいくつか紹介します。若き社会人の諸君、愛のムチだと思ってよ~く聞きなさい。

二人の主任が教えてくれた仕事の基本

 筆者が新入社員時代に所属していた部署には、なぜか2人の上司がいました。A主任とB主任です。どちらも、とっても厳しい上司でした。

 A主任は「納期と計画」にうるさい人でした。新たな仕事を始めてよいかと尋ねると、A主任は「仕事の納期はわかっているの? わかっているなら計画を示してから始めなさい!」と言います。新入社員は、まともな計画など立てられません。いい加減な計画書を提出しては、何度も説教されました。

 B主任は「目的と成果」にうるさい人でした。仕事の終了報告をすると、B主任は「その仕事の目的はわかっているの? わかっているならアウトプット(成果)を出せたのだろうな!」と言います。新入社員は、アウトプットなど意識していません。いい加減な報告書を提出しては、何度も説教されました。

 ある日、筆者は初めて出張の機会を得ました。地方工場の生産ラインに、制御プログラムをインストールする仕事です。プログラムは完成していました。よくできたプログラムだと自負していました。すぐにでも出張して、プログラムを動かしたい。しかし、A主任に話をしたら、仕事を始められません。出張から帰ってB主任と話をしたら、仕事を終わりにできません。どうしたらいいでしょう。

 筆者は、妙案を思いつきました。「納期と計画」にうるさくないB主任と話をして出張の許可をもらい、「目的と成果」にうるさくないA主任に出張の報告をすれば、スムーズに事が進むはずです。この妙案を実行した結果、無事に出張に行けました。

 しかし、帰ってきてから二人の主任に呼び出されて、こっぴどく叱られました。彼らは、筆者の悪巧みを叱りましたが、本当は得意技をかわされたことが悔しかったのかもしれません。こんなセコい筆者ですが、両主任が教えてくれた「納期と計画」と「目的と成果」は、今でも仕事の基本中の基本としています。

上司はなぜ報告書を投げ返すのか

 最近では、筆者も含めて、叱るのが下手な上司が多いようです。優しい言葉で注意する程度しかできません。それに対して、昔の上司はスゴかった。「何だ、これは!」と大声で怒鳴って、部下に報告書を投げ返したりしました。今ではTVドラマでもない限り、こんなに迫力のあるシーンは見られないでしょう。

 若かりしころの筆者は、上司から週報(週末に提出する業務報告書)を投げ返されたことがあります。当時はワープロがなかったので、手書きで書類を書いていました。字が下手なことが原因かと思って、誤字脱字のチェックもしながら丁寧に書き直して再提出すると、またまた投げ返されます。内容を見直して修正を加えて再提出すると、今度は投げ返されず、そのままゴミ箱に捨てられました。

 涙が出てきました。投げ返されるなら、まだガマンできます。しかし、ゴミ箱に捨てるのは、あまりにもひど過ぎるでしょう。筆者は、声を詰まらせながら上司に聞きました。

筆者:なぜ、私の週報をゴミ箱に捨てたのですか?
上司:ゴミだからだよ。
筆者:どこが、ゴミなのですか?
上司:保存する価値がないからだよ。
筆者:どうして、保存する価値がないのですか?
上司:Done(結果)だけが書いてあって、ToDo(今後)がないからだよ。

 これを聞いて、筆者は、ハッとしました。上司の言うとおりです。どんなに立派な内容の週報であっても、今後の計画が書かれていないなら、それを後で見ることはありません。したがって、保存する価値がありません。

 筆者は「わかりました」と言って自分の席に戻り、あらためて週報を書き直しました。下手な字など気にせず、Doneに対するToDoを書きまくりました。それを提出すると、上司はニヤリと笑って「ご苦労様」と言って受け取ってくれました。このとき「上司ってスゴイ! カッコイイ!」と感動しました。いつか、自分も同じことをやってみたいと思いました。

 数年後、筆者も部下を持つようになり、週報を受け取る立場になりました。新人のC君の週報には、案の定Doneしか書いてありません。筆者は、C君を呼んでドキドキしながら週報を投げ返しました(やったぜ!)。C君は「何で投げるのですか!」と烈火のごとく怒り出しました。怖気づいた筆者は、「あ、あのね。週報にはDoneだけでなくてToDoも必ず書いてくださいね」と弱々しく答えました(最近の上司は、叱るのが下手ですね)。