サイボウズは、1997年に3人で立ち上げた会社ですが、この3人には共通点があります。それは、3人とも血液型がA型だということです。そう言えば、3人とも細かいことが気になるタイプかも知れません。血液型で性格を決めつけることには感心しませんが、今から思うと、この3人は価値観がよく似ていたのだと思います。

 例えば、「大きなチャレンジをしたいこと」や「寝食を忘れて働くことをいとわないこと」、「給料がなくても、夢があれば貧乏生活に耐えられること」です。これは、3人とも同じ価値観でした。ゼロから起業し、事業を大きく育てるということは簡単なことではありません。まず、事業が安定軌道に乗るまでは、自分の生活を犠牲にしていく覚悟がなければなりません。創業者の3人は、これらの共通点をもっていたおかげで、サイボウズをスムーズに立ち上げることができたのだと思います。

 しかし、社員を増やしていくにつれ、この共通点は薄れていきました。最初は、それがとても残念でなりませんでした。大きな夢を持っているのだから、実現のために自分の生活を犠牲にしても仕方がないのではないか。とことんまでやり抜く覚悟を持つべきではないか。

 ただ、同じ性格の人たちを永遠に集め続けるのは難しいことです。新しい社員を採用できなければ、事業を拡大することはできません。

 そこで、私は発想を変えることにしました。同じ人を集めるのではなく、違う人を集めてもうまくいく組織にするという発想です。そう発想を切り替えた瞬間に、すべてのメンバーが魅力的に見えてきました。

 例えば、仕事は仕事として割り切って働く人がいます。こういう人は、あまり自分の仕事に深い思い入れがあるわけではありません。以前は、その姿勢が残念でしたが、仕事に深い思い入れがない分、仕事を選ばずにチャレンジしてもらえることがわかりました。多少困難なことでも割り切って取り組んでくれます。この柔軟性は、組織にとって非常に貴重です。

 また、自分の業務にしか興味がないという人もいます。以前は、全社の方針にもっと気を配り、周囲に貢献する活動をして欲しいと思っていましたが、それも改めました。そういう人は、その業務をやっているだけで幸せなので、その業務自体が大きな報酬となります。それ以上モチベーションを上げる必要がないため、実はマネジメントが非常に楽なのです。

 様々な価値観を受け入れようと進めた結果、様々な人が入社してくれるようになりました。その結果、一人ひとりの輝きが増しているように思います。

各人の個性が輝いてこそ世界一のチーム

 ある営業部門の女性は、圧倒的に明るい力があります。物事を深く考えることは得意ではないと本人は言いますが 、彼女の明るさによって多くの販売パートナーの心を動かし、彼女と一緒にビジネスを拡大したいという気持ちにさせています。ある管理部門の男性は、気がかりなことがあると納得するまで考え込んで、手が止まってしまいます。そのおかげで、リスクの分析をさせると、他の人がまず気付かないことまで発見し、早期に対策を打つことができます。

 組織には、慎重な人も必要ですし、行動力のある人も必要です。慎重でよく考える人が戦略を立て、行動力のある人が実行すればよいのです。世界一の野球チームを目指すとしても、全員がエースや4番バッターである必要はありません。控えの選手がいて、監督やコーチがいて、道具係がいて、身の回りの世話をしてくれる人がいて、それでようやく世界一の野球チームを目指せるのです。それぞれが、それぞれの個性を発揮していくことが大切なのだと気付かされました。

 組織が拡大していったとき、本当に全員が共通してもっておくべきものは、1つか2つくらいではないでしょうか。「誠実さ」であったり、「共通のビジョン」であったり。求めるものは人それぞれです。そのことを理解し、その人に合った報酬を提供できれば、全員が幸せで働ける。そのような会社をこれからも目指していきたいと思います。

 長らくご愛読いただきましたこちらの連載は、一旦終了させていただきたいと思います。また別のテーマで再開したいと思いますで、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。