とうの昔に死語になったバズワードかと思っていた。何の話かというと「Web2.0」のことだ。そう言えば、Web2.0の企業版の「Enterprise2.0」という言葉もあった。今では、こうした言葉を口にするだけでも恥ずかしいと思っていたのだが、大きな間違いだった。なんと世界の企業のCIOは、仮想化やクラウドコンピューティングと並びWeb2.0を2010年の優先度の高い技術として挙げていたのだ。

 これは、ガートナーが1600人の世界のCIOを対象に実施した、2010年の課題に関する調査で明らかになったものだ。この調査結果のうち「テクノロジ面の優先度ランキング」を見ると、1位が仮想化、2位がクラウドコンピューティングとまあ順当なところ。ところが3位には、Web2.0がランクインしている。ちなみに2009年版では、Web2.0は15位だそうだから大躍進である。この調査が発表された3月。もっと早く着目すべきたったと、私は少し後悔している。

 改めてWeb2.0とは何かをおさらいすると、情報の送り手と受け手という固定的な関係が崩れ、誰でもが情報の送り手になれるようになったこと、あるいはそれを実現する技術やサービスのことだ。それを企業の情報システムにも適用しようとしたのがEnterprise2.0だ。東葛人はいつ頃、この件で記事を書いたかと調べたら、2006年に Web2.0の記事 Enterprise2.0の記事を1本ずつ書いていた。もう4年も前の話だ。だから今、CIOの間で“ブーム”だと知り、とても驚いたのだ。

 でも、まあTwitterなどのソーシャルメディアの影響力がどんどん高まっている今だからこそ、CIOはWeb2.0に着目するのだと考えれば、これは真っ当な話になる。やはり言葉は大事に使いましょう、ということか。キーワードというと最近は「また造語か」と顔をしかめる人も多いが、やはり時代のベクトルを感じさせる言葉は重要だ。問題は、その言葉が表す本質をつかめるかであって、Web2.0の本質を考えると、今CIOが着目するのも頷ける話だ。

 さて、この件をもう少し膨らませると、面白い話になる。Web2.0なるものに企業が注目するのは、主にマーケティングの側面からだ。そしてEnterprise2.0的な取り組みなら、個々の従業員の増力化やチームワークの強化がその狙いだ。こうした話は、主に企業が売り上げを追う局面で登場する。つまり、IT投資にかかわるCIOの意識が、コスト削減を主目的とする統制局面から、売り上げ拡大を目指す“いけいけ”局面に変わったということだろう。

 さらに興味深いことに、世界のCIOにとってBI(ビジネスインテリジェンス)の優先度が低下しているのだ。先ほどの「テクノロジ面の優先度ランキング」では、BIは5位。それまで2006年から連続1位だったそうだから、大幅に後退したわけだ。さて、これをどう考えればよいのか。

 もちろんBIはこれまで、グローバル企業にとってIT投資の大きなテーマだったから、BIがらみでやるべきことは一段落したのかもしれない。ただ、この間の大不況でIT投資は世界的に止まっていた。だから、BIの優先度が下がったわけを投資の一巡で説明するのは少し無理がある。とすると、基幹系システムの中のデータだけを分析するのは限界がある、というCIOの問題意識の表れかもしれない。

 これは、売り上げ拡大のための情報活用を考える際に、必ず問題になる話だ。基幹系システムのデータは過去のもの。いくらコネクリ回しても未来の売り上げにつなげることは難しい。だから、そんな過去データだけでなく、消費者の生の声や現場の従業員の意見をシステムに吸い上げる必要がある。そうした点を考慮すると、“いけいけ”局面に変わった今、Web2.0、あるいはEnterprise2.0への関心が急速に高まるのも無理からぬ話だ。

 さて、トラディショナルなITベンダーにとっては、このWeb2.0への“ニーズ”を実需に変換することは難しい。消費者へのマーケティングならネットベンチャーの独断場だし、社内ブログなどのEnterprise2.0関連のビジネスも屍累々の歴史だ。そう言えばクラウドビジネスについても、膨大な消費者を引きつけるクラウド事業者が企業向けのビジネスでも有利になりそうだ。ただ、ご安心を。あのグーグルもソーシャルメディア系はあまり得意でない・・・と言っても、あまり慰めにならないか。