4月から一介の記者に戻ったので、「記者の眼」執筆者予定表に再び入れてもらおうと、ITproの田中副編集長にお願いした。その時、田中副編集長とこんなやり取りをした。

 「こういうことを書け、というお題をいただけませんか」
 「谷島さんの好きなことを書けばいいでしょう」
 「最近、何を書いても同じことの繰り返しになりがちなのですが」
 「それはそれでいいのでは。○○さん(田中や谷島の先輩の名前、
  あえて伏せ字)や△△さん(同)だって、いつも同じことを
  言ったり書いたりしていましたよね」

 同じことを書くのはマンネリだが、継続は力なりと居直ることもできる。後者を目指すつもりで、ITの世界で起きていることはすべて繰り返しである、という主張を繰り返してみたい。

 年初に開かれた日経コンピュータのデスク会(副編集長以上が集まる会議)で、今年に実施するセミナーの企画を議論する機会があった。その時、一人の副編集長が「バボック(BABOK)をやりましょう」と提案した(本当はビーエーボックというらしい)。

 筆者は内心、「ビジネス分析のBABOKか。前からあったような」と思ったが、その会議の時は、提案を募る立場であったので何も言わなかった。ほかの副編集長が「いけますか(人が集まるかという意味)」と質問したところ、提案者は断言した。「絶対大丈夫です。BABOKは今、来てますから(ブームになっているという意味)」。おかげさまでそのセミナーは大盛況に終わった。来場者の方にお礼を申し上げる。

 情報システムを開発あるいは導入する際に、そもそも何をしたいのかという要求をしっかりまとめることは言うまでもなく重要であり、その作業を改めて見直すことには意味がある。そのセミナーに多くの方が集まる。何も問題はない。

BABOKの盛り上がりを見て思うこと

 何も問題はないのだが、数年後、問題が発生するような気がする。BABOKに関する盛り上がりを見ていると、数年前のPMBOKのそれを思い出すからだ。いや、他人事のように書いてはいけない。

 筆者はプロジェクトマネジメント学会員であり、プロジェクトマネジメントが大事だ、という記事を量産してきた。日経コンピュータで特集をしたり、ITproにコラムを書いたり、セミナーを開いたり、書籍を作ったり、色々やった。当時の読者アンケートに、「久しぶりに日経コンピュータの購読を再開したところ、プロジェクトマネジメント専門誌のようになっていて驚きました」と書かれていたことを思い出す。

 プロジェクトマネジメントについて騒いでいる時に、PMBOKについても言及した。PMBOKとはプロジェクトマネジメントに関する知識体系を指す。よく出てくるPMBOKは、A Guide to the Project Management Body of Knowledgeという文書のことだから、正しくはPMBOK Guideと書かないといけない。BABOKも同様に、BABOK Guideと書いたほうがよい。

 これまで世界の諸先輩が積み重ねてきた、プロジェクトマネジメントやビジネス分析にかかわる知識や経験は膨大である。そうした膨大な知識や経験を体系立てて整理しておけば、後から続く人にとって有益な“Guide”になる。その「整理するための体系」を提供するのが、PMBOK Guideであり、BABOK Guideである。

 したがって、これらのGuideを読み、理解度を測る試験に受かったからといって、プロジェクトマネジメントやビジネス分析ができるようになる訳ではない。

 何度か書いたことだが、PMBOK Guideを初めて読んだベテランSEの反応は二分される。一つは「馬鹿馬鹿しい。言葉の遊びであって、こんなものを学んだところでプロジェクトは仕切れない」という反発あるいは無視である。もう一つは「素晴らしい。私が今までやってきたことを後輩にこう説明すればいいんだ、とすっきりしました」という賛同ないし感動である。さすがベテランであってどちらの立場にしても、Guideだという点は理解されている。

 ベテランではない、これからの人々にとっても、Guideを知り、挑戦すべき世界の全体像を把握しておくことに意味はある。意味はあるが、先に述べた通り、GuideはGuideであって、ナレッジそのものではない。

 PMBOK Guideについて言うと、それを学び、資格をとることが優先されたきらいがある。あるいは、PMBOK Guide通りにプロジェクトをやれ、という指示が下り、現場の負荷をかえって増やしたという話も聞く。

 BABOK Guideについても、それを学ぶことが優先されたり、その通りにビジネス分析をやれ、という指示を受けて「うまくいきません」と悩む若手が出たり、「くだらない」と反発するベテランが出たりするのではないか。念のため書いておくと、BABOK Guideに意味がないとか、学ぶ必要はないと言っているのではない。