写真1●東京からの15人を含めて41人が参加した情報化研究会・第11回京都研究会
写真1●東京からの15人を含めて41人が参加した情報化研究会・第11回京都研究会
[画像のクリックで拡大表示]

 4月3日土曜日、情報化研究会・第11回京都研究会を開催するため、京都へ行った。会場は昨年に引き続き、JR京都駅前のキャンパスプラザ京都だ。東京からの15人を含め、41人が参加した(写真1)。NTTグループの若い社員から、東大教授や裁判官までいるという多彩な顔ぶれだ。もっとも、裁判官のYさんは20代の方で、数年間、IT業界で働きながら司法試験の勉強をし、司法修習を経て今年任官したばかりの判事補だ。何年か前、Googleで自分の名前を検索すると「ネットワークエンジニアの心得帳」のことを褒めているYさんのブログを発見した。筆者がそこにコメントを書いたのがきっかけで情報化研究会に入会したのだ。ITの仕事をしながら司法試験にパスするとは大したものだ。

 さて、今回は研究会の三つの講演のトピックについて書きたい。

成功するプロジェクト、失敗するプロジェクト

 最初に登壇した筆者は、「2010年代の企業ネットワーク」というテーマで講演した。五つのトピックについて話したのだが、そのうちの二つを取り上げる。

 一つめは「品質はそこそこだが速くて安い」回線サービスをユーザーがありがたがる時代は終わったということだ。筆者自身も「ネットワーク・リストラ」として取り組んだ「専用線を極力使わず、Bフレッツをはじめとするベストエフォート型の安価でかなりの広帯域が期待できる回線を多用する設計」はもう古い、ということだ。そのきっかけを作ったのは2009年7月にKDDIがサービスを始めた新しいタイプの広域イーサネットサービス「Wide Area Virtual Switch」だ。ベストエフォートではない、帯域保証された高品質で広帯域な広域イーサネットを安価に利用できるようにしたのだ。

 KDDI以外の通信事業者は、従来の広域イーサネットの実売料金を安くすることで対抗した。結果、従来と比較して広域イーサネットがかなり安価に使えるようになった。帯域が保証されているサービスが安くなったのにわざわざベストエフォートのサービスを選択することはない、ということだ。企業は「高品質・広帯域・低コスト」なネットワークを作れるようになった。

 もう一つはプロジェクトマネジメントの話だ。プロジェクトを成功させるには多くの要素がある。特に3月のコラムで書いたように、プロジェクトマネージャー(プロマネ)の役割は重要だ。だが、プロジェクトはプロマネだけでは成立しない。担当分野ごとに複数のチームが作られるし、各チームの中でもメンバーごとに役割や仕事の範囲が決められる。成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトを対比すると図1のようになる。失敗するプロジェクトは分業意識が高すぎるプロジェクトだ。Aチームは自分の守備範囲だけをこなしていればいい、という意識しかない。Aチームの中のメンバーも自分の担当部分だけやっていればいい、と思っている。プロマネはチームリーダーからの報告をうのみにして、各チームの内容を突っ込んでチェックしない。

図1●成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの違い
図1●成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの違い

 こういう分業意識の高すぎるプロジェクトはチーム間、メンバー間にスキマができ、やるべきことが漏れたりインタフェースに不整合が起こりやすく、それが大きなトラブルにつながる。成功するプロジェクトはチーム間の分業はされていても、隣接するチームでやっていることでおかしなことがあれば指摘してあげたり、お互いの境界領域でどちらがやるべきか分からないときはチーム間で相談したりと、スキマが出ないよう端の部分が重なり合っている。プロマネも一歩踏み込んだところまで見ていて、プロマネとチーム間のスキマがない。

 スキマのないプロジェクトは、杓子定規なルールを決めただけでは作ることができない。チームや個人の仕事の境界を割り切らず、ちょっととなりのことも心配してあげよう、手伝ってあげよう、そして何としてもプロジェクトを成功させよう、という気持ちがあって初めてできるものだ。