原口一博総務大臣が日本の成長戦略として提唱する“光の道”構想が、NTTグループの組織体制の再々編議論を呼んでいる。

 大臣は、光の道の目標として「2015年頃をメドにブロードバンド利用率100%の達成」を掲げている。一方、NTT東西のFTTH(Fiber To The Home)は、全国の市町村主要部の90%以上にインフラは敷設済みだが、世帯数で見た利用率は約30%にとどまっている。利用率が向上しない背景の分析や対応策を大臣直轄の作業部会「ICTタスクフォース」が議論中で、アクセス回線設備をNTTグループから分離するという競争促進策も一案として上っている。基本的な方向性は5月中旬にも公表される見通しだ。

 日経コミュニケーション編集部では、このタイミングに合わせて、現在の光の道構想の提唱に至る通信政策の経緯や、NTTグループの組織体制がなぜ問題視されるのかをひとまとめに理解できる、デジタルムック「2010年NTTグループ再編問題のすべて」を緊急刊行した。

 内容は、過去に本誌で掲載した記事を再収録したもので、通信政策、NTTグループの戦略、デジタルディバイド解消に向けた総務省のこれまでの取り組み、原口大臣をはじめとする民主党の政務三役の最新のインタビューなど、2004年から2010年に至るまでの関連記事で構成している。光の道の議論は現在も進行中だが、過去の経緯を改めて読み直すと、今の議論を読み解く上でも参考になる発見が数多くある。

NTTグループ首脳も現体制のハンデを認識

 例えば、NTTグループの歴代経営陣のインタビューをまとめ読みすると、4~5年くらい前まではNTTグループ首脳も比較的自由に、組織体制についてコメントしていたことが分かる。収録記事の一部を取り上げると、和田紀夫社長(現会長)は、2005年当時の新年インタビューで、「光化、IP化を推し進めるにはNTTの組織体制を変えることも一つの案としてあり得るのではないか」と、自ら再々編を提案することも可能性として挙げていた。和田社長は同じインタビューで、「ソフトバンクの孫社長とは波長が合わない」と当時から設備投資のリスクを負おうとしないソフトバンクの姿勢を批判していたのも興味深い。

 ほかにも「99年に再編した現行体制は、昔の電話の発想で県単位に分割した。ユーザー満足度という意味では実状と合っていない」と、NTTコミュニケーションズの和才博美社長が2006年のインタビューで語っているなど、NTTグループ首脳陣自身も現在の組織体制が、移動通信と固定通信を一体で提供できる他社との競争上、ハンディになっていると認識していることが分かる。

 現政権のICTタスクフォースでは、ソフトバンクの孫正義社長がぶちあげた光回線の敷設会社の新設論が様々な反響を呼んだ。この提案に対して、タスクフォースの構成員の一部は、ブログやツィッターで懐疑論を提起するなど、切り刻みに対する抵抗があるように見える。

 だが2005年に竹中総務大臣が主導した「通信と放送のあり方に関する懇談会」での議論を振り返ると、当時はより強行に分割が必要という意見が打ち出されていた。当時も、孫社長は同じように光回線公社の設立を主張し、これに対して座長の松原聡東洋大学教授は、主張を参考にした独自の試算を実施し、アクセス部門の分離が廉価なFTTHサービスの実現に有効、と判断していた。当時のインタビューでは、「NTTの組織体制が今のままで良い、という構成員は皆無」とし、最低でも機能を分離し資本分離まで進めるべきという持論を展開している。このときの報告書に、「NTTの組織体制について、2010年に具体的な検討を開始すること」が明記されたことが、現在のICTタスクフォースの伏線になっている。

7割の企業ユーザーが東西分断に不満

 本誌では事業者や行政の視点だけでなく、ユーザーが抱くグループ体制に対する不満についてもたびたび取り上げてきた。

 日本全国に拠点を持つ企業ユーザーにとって、東日本と西日本で別々の会社が別々のサービスを提供している体制は不便である。2007年、2008年、2010年と実施した企業ユーザー対象のアンケートでは、一貫して7割近くのユーザーが「ワンストップで全国サービスを提供する体制が望ましい」と答えている。ユーザーの利便性という観点からは、単純な分離分割以外の選択肢の議論も必要だろう。一方で、「FTTHサービスのシェアが高すぎ、競争によるサービスの低廉化が進んでいない」という批判も強い。

 最近の収録記事では、ネット上でもNTTの組織論について活発に発言しているソフトバンクモバイルの松本徹三副社長や、内藤正光総務副大臣、金正勲慶應義塾大学教授などの多彩な論陣がリレー連載した企画「NTTの2010年問題、私の提言」を完全収録した。松本副社長は寄稿の中で、全国に光ファイバーを敷設するアクセス部門の分離さえできれば、「NTT東も西もコミュニケーションズも必要なら統合すればよい」と、本誌でしか読めない、組織分離後の提言もしている。

 デジタルムックに掲載した内容はここでは紹介しきれないが、NTT東西が構築したNGN(次世代ネットワーク)を中心にNTTグループが求心力を高めようとしてきた経緯や、全国平均7割以上というFTTHサービスの高いシェアを獲得してきたNTTグループの底力、海外でも今の日本と同様に議論されてきた主要通信事業者のアクセス分離の考え方や成果など、総量200ページにわたるボリュームで余すところなく現在何が議論されているのか、これまでどう議論が進んできたのかが把握できる。

 今回の企画は、デジタルムックという新たな形式で刊行したのも新しい取り組みだ。電子教科書の普及も目指す“光の道”を、電子書籍で一気に理解するのも一興だ。配信形式は、PC上でのストリーム配信という独自の方法を採っているが、200ページを超すボリュームを、案外、素早くストレスなく読み進めていくことができることに驚かれる方もいるのではないだろうか。

 今回の企画を通して記者は、散逸するWebページ上の独立した記事をリンクを頼りに読み進めたり、反対に紙でストックした雑誌を積んで必要なところだけを拾い読んだりするのに比べ、全文キーワード検索が可能な電子書籍として再読する方法が非常に便利であることを実感した次第である。