少し前だが、ある大手製造業の情報システム部長と雑談をしていたら、「ITの威力を最も見える化できるシステムは何か分かりますか」と聞かれた。なんでも最近導入したところ、即座に目に見える効果が出て経営トップも大満足。そのお陰で、情報システム部門の株も大いに上がったという。そこで私はいろいろと考えたのだが、うーん、分からない。結局、答えを教えてもらったのだが、返ってきたのは極めて単純な答えだった。

 その答えは「テレビ会議システム」。こう書くと読者の皆さんの「なぁーんだ」という声が聞こえてきそうだが、かく言う私も思わずその場で「なぁーんだ」と言いそうになった。だって、そりゃ当たり前である。全国やグローバルに事業を展開する企業がテレビ会議システムを導入して、会議のための出張を削減すれば、その分のコストを削減できる。そんなことは以前から分かりきったことである。

 そう思ったのだが、ここでふと考えた。では何故、「ITの威力を最も見える化できるシステムは?」と聞かれて、即答できなかったのか。つまり、私はテレビ会議システムを「システム」のカテゴリーに入れていなかったことになる。難しい情報処理を行うものが情報システムであり、単純なコミュニケーション系、コラボレーション系のシステムは情報システムにあらず、いまだに無意識下でそんなふうに思い込んでいたのかもしれない。

 しかし考えてみれば、コスト削減などの効果が即座に見えるシステムは、昔からこうしたコミュニケーション/コラボレーション系のシステムに決まっている。もう少し情報システムぽく言えば、情報共有系のシステムである。そう言えば、今をときめくグーグルのクラウドサービスであるGoogle Appsも、Gmailを核とした情報共有系のシステムである。

 さて、私に謎をかけた冒頭の情報システム部長は、テレビ会議システムの導入の際にちょっとした演出を行った。リーマン・ショック後でコスト削減が緊急課題になっていた時だ。当然、情報システム部門にもコスト削減策が求められたわけだが、そこで情報システム部門は大胆な提案を行った。経営トップが最も重要な会議と位置付ける、海外拠点も含めた幹部が一堂に会する全体会議をテレビ会議で代替しましょう、と提案したのだ。

 いろいろ曲折があったようだが、結局GOとなる。で、初めて“バーチャルな形”で実施した全体会議は問題なく運営できた。経営トップからもその場で「これは使える。素晴らしい」とのお墨付きを得た。情報システム部門からすると、これはもう大成功である。幹部が居並ぶ前で経営トップに対して、ITの威力を思いっきり印象付けることができたわけだ。

 この話をとらえ返すと、この情報システム部門は社内マーケティングに成功したと言える。ITの効果をシンプルに分かりやすく、しかも劇的に経営トップや幹部に示すことができたからである。マーケティングにはシンプルさとポジティブサプライズが一番だが、ITの威力を最も見える化できるシステムを劇的に使うことで、それを実現したわけだ。この成功が今後の情報化推進の取り組みに良い影響を与えるのは間違いないだろう。

 さて、それなりに頑張っているはずなのに、社内で「あいつらは何をやっているんだろう」と言われる情報システム部門は、こうした大見得を切れていないことが多い。難しい情報システムを真面目にコツコツ開発したり、運用したりするだけでは、経営トップや利用部門の理解を得るのは難しい。やはり情報システムも“見た目”が大事である。ITの威力を分かりやすく見える化するマーケティング能力が必要なのである。

 だが、真面目が基本の情報システム部門の多くは、そのような芸当は難しいかもしれない。そうだとすると、海千山千のITベンダーは顧客企業の情報システム部門を支援する必要があるかもしれない。自社のプレゼンノウハウなどを提供して、情報システム部門の地位向上に貢献すれば、自らのビジネスにもプラスになるだろう。おっと、国産のITベンダーはマーケティング下手だったっけ・・・うーん。