金融庁が2010年4月23日に公表した文書がちょっとした話題になっている。名称は「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」。IFRSにかかわる誤解として、全般的事項を11項目(「上場企業は直ちにIFRSが適用される」など)、個別的事項を6項目(「IFRSは徹底した時価主義ではないか」など)という計17項目を提示。それぞれについて「実際はどうなのか」を示している(関連記事)。

 金融庁の内藤純一 総務企画局長はこの文書を出した背景として、「IFRSの理解が進んでいる一方で相当大きな誤解もある」点を指摘する(関連記事)。17項目は「各方面から寄せられた質問を整理してまとめた」(内藤氏)という。金融庁における4月23日の記者会見で、大塚耕平 内閣府副大臣は「金融庁にしては珍しく分かりやすい資料を作ったなと思っています」と語っている。ご覧になられていない方は、金融庁のWebサイトからぜひダウンロードしてみてほしい。

「全面的なITシステムの見直し」が必要か

 「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を読むと、確かに分かりやすさに配慮しているように感じる。内容の多くは、2009年6月に金融庁が出した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」をはじめとする既存の文書で説明したものと重複している印象があるが、多くの企業の参考にはなるだろう。文書を出したタイミングの早さも評価できる。

 ただし、この文書は読み方というか扱い方に注意が必要な気がする。IT関係者になじみやすい項目を一つだけ取り上げたい。全般的事項の三つめの「全面的なITシステムの見直しが必要か」である。

 ここでは「IFRSになると、ITシステムを含め、業務プロセス全般について全面的に見直さなければならない」という誤解に対し、実際は「既存のシステムの全面的な見直しは、必ずしも必要ではない」としている。さらに「IFRSを適用するために必要な範囲で、システムの見直しを行えばよい」と補足している。

 一見、当たり前のことを言っているように思える。だが、「待てよ」とつい考えてしまう。ここでいう「見直し」とは何を指しているのだろうか。この文書ではシステムの改変・刷新を指しているように思えるが、そう断定しているわけではない。システムの現状を棚卸しして、IFRSの導入による影響を分析することも広義の「見直し」といえる。その見直しの対象は、比較的広い範囲に及ぶのではないか。

 しかも「既存のシステムの全面的な見直し」が「全く不要」と言っているわけではない。企業によっては「全面的な見直し」が必要な場合もあると受け取るべきだろう。加えて、「IFRSを適用するために必要な範囲で、システムの見直しを行えばよい」というのはその通りだろうが、「IFRSを適用するために必要な範囲」をどうすれば適切に見極められるのかという疑問がわく。適用範囲の特定する作業は、システムの見直しと同じくらい大変な気もしてくる。

 これは、筆者がこの文書を読んで感じたことのほんの一例にすぎない。読者の皆さんは、さらにいろいろな点に気付いたり、疑問に思ったりするに違いない。近く連載「中澤進の『IFRS動向を読む』」で、この文書に関してより詳細に解説する予定である。

「誤解以前」の状況にあると見るべき

 筆者は、「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」の意義を疑問視しているわけではない。扱い方に注意が必要であるにしても、企業にとって信頼でき、かつ参考になる文書が増えるのは喜ばしいことだ。

 にもかかわらず、やや引っかかるものがある。「IFRSは本当に誤解されているのか」という疑問を抱いているからだ。「IFRSは正しく理解されている」と主張したいわけではない。それこそ誤解を恐れずに言えば、「まだ誤解をどうこう言う以前の段階にあるのでないか」と感じているのである。