このところ、新聞を読んだり、テレビを見たりするたびに「デフレ」「値引き競争」という言葉を見聞きする。これに伴って「節約志向」という言葉がよく使われるようになった。

 過去の新聞記事データベース(日経テレコン21)を使って調べてみると、バブル景気のさなかの1989~91年の3年間には節約志向というキーワードを含む記事はわずか7件しかヒットしなかった。しかも中身をよく読むと、サラリーマンが節約志向なのに対して主婦は「高級品志向」といった内容だったりする。

 ところが、2010年に入ってから今日までで調べると、わずか5カ月間で410件もの記事がヒットする。

無理を伴うコスト削減は限界に

 節約志向は何も今に始まったことではない。筆者は1990年代半ばのバブル崩壊後に学生生活を送り、さらに2001年ころのITバブル崩壊直後に社会人になった。この間、100円ショップが広がり、低価格衣料品チェーンが増え、大型家電量販店が出店攻勢をかける、という様子ばかりを見てきた。節約志向はずっと続いているのだ。

 節約志向というのは厄介な言葉だと思う。「節約志向に対応した新商品・新サービス」を作ろうとすれば、取引先や従業員に無理を強いることになりがちだ。供給者が物の作り方や仕事の進め方自体を変えることなく節約志向に対応しようとすれば、取引先に値引きをのんでもらうしかない。人件費が高い日本では、賃金を下げたり人員削減したりすることも考えなければならない。こうした無理を伴う改革は、なかなか持続しない。

 こうした現象に対して、食品スーパーである成城石井(横浜市)の大久保恒夫代表取締役社長は「コスト削減で小売業が栄えることはない」と言い切る。大久保社長は、良品計画やドラッグイレブン(福岡県大野城市)など様々な小売り業態の経営改革で成果を出したことで、流通業界ではよく知られた人物だ。

 成城石井はその名の通り、高級住宅地として知られる東京・成城が創業の地であるが、今では、東京や大阪など都市部を中心に約70店舗を展開している。一般的な食品スーパーとはやや異なる、「ほど良い高級感」がある品ぞろえが特徴だ。

 大久保社長は「高度経済成長時代がとうに過ぎて、消費者は物を欲しがらなくなっているのに、小売業の側は今でも大量の物を安売りしようとしている」と話す。安売りするには、その分をコスト削減するしかない。