普段、Webサイトを閲覧しているぶんにはほとんど意識しないが、実はインターネットはAS(Autonomous System)と呼ばれる大規模なネットワーク同士が相互接続することで成り立っている。厳密には違うのだが、ここではひとまず「一般にASはインターネット・サービス・プロバイダーであることが多い」と思っていただきたい。

 相互接続の条件はASの力関係によって変わってくる。この『力』の定義が変化しつつある。有力なコンテンツを持つASの力が大きくなっているというのだ。

接続形態は「トランジット」と「ピアリング」

 ASの力関係の話に入る前に、ASについてもう少し詳しく見ていこう。

 各ASはインターネット上で一意のAS番号を持ち、互いに「どのASの先にどのASがつながっている」という情報(経路情報)を交換する。結果的にすべてのASすなわちインターネットへのアクセスが可能になる仕組みだ。

 AS同士の接続形態は大きく、トランジットとピアリングの2種類がある。トランジットでは、一方のASがインターネットのすべての経路情報(フルルート)を提供する。ピアリングでは、AS同士が互いの経路情報のみを交換する。

 ピアリングは無償である場合が多い。トランジットでは流れるトラフィック量などに応じて、フルルートを提供する側のASに料金が支払われる。

 トランジットやピアリングの契約の詳細は公開されず、ASを持つ企業同士が個別に話し合って決めるのが一般的だ。接続の条件は、相互接続するASの力関係に応じて異なる。例えば今日では、ピアリングは力関係がつりあったAS同士が結ぶのが一般的だ。規模やユーザー数がつりあわないASは、相手の企業からピアリングを断られてしまうかもしれない。

 このAS同士の力関係の頂点に位置しているのが、Tier1と呼ばれる最大手のプロバイダーだ。Tier1とはトランジットを購入せず、ピアリングだけでフルルートを入手できる最大手プロバイダーをいう。現在10社ほどあり、その多くは米国の企業である。

 インターネットはTier1を頂点にして、多数のプロバイダー(AS)がツリー型につながって成り立っているとよくいわれる(関連記事)。Tier1以外のプロバイダー(AS)は何らかの形でトランジットを購入することで、インターネットへの接続性を確保する必要がある。

ASとしてのコンテンツ関連事業者の存在感が増す

 Tier1の多くが米国企業なのは、インターネットが米国を中心に発展してきたという歴史的背景がある。しかし、ツリー構造の最上位であり続けるためは、歴史的背景の下支えだけでは十分でない。プロバイダーとして「力」を持ち続けていない限り、トランジットなしでフルルートを集めることは難しいはずだ。

 では、プロバイダーとしての「力」とは何なのだろう。日経NETWORKの2010年5月号でプロバイダー同士の接続に関する記事を企画した際に、Tier1関係者に改めて聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきた。

「ここ数年で、ピアリングやトランジットの条件を決める『力』の定義がかなり変化しています。以前は、多数のエンドユーザーを抱えているか、広い地域でサービスを提供しているかが重視されていました。今ではそれに加えて『人気のあるコンテンツを持っているか』が重要になっています」

 冒頭で触れたように、一般にASはプロバイダーであることが多い。だが今日では、大規模コンテンツ関連事業者がAS番号を取得し、プロバイダーなどと相互接続することも珍しくないという。米国ならAmazon、Google(YouTubeを含む)、Facebook、Microsoft、Yahooなどがその例だ。こうしたAS番号を持つ大規模コンテンツ関連事業者の存在が、インターネット上で大きくなっているというのである。

 ピアリングやトランジットに関する取材をすると、力のあるプロバイダー(AS)をよく「トラフィックを持っている」などと表現する。多くのトラフィックを生み出し、処理しているプロバイダー(AS)ほど、力があることになる。近年ではこのトラフィックを生み出す原動力が、インターネット接続サービスから有力なコンテンツに移っていると言い換えることもできるだろう。