「利用部門のSaaS勝手導入」の問題は、日本でも予想以上のスピードで深刻化しつつあるようだ。米国のユーザー企業の間では大問題になっているが、日本企業の場合、情報システム部門がその問題を認知すらしていない・・・。この前はそんな話を書いたが、最近、日本企業からも「利用部門の勝手導入を統制できない」というシステム部門の嘆きが聞こえてくるようになった。

 SaaSの勝手導入とは、利用部門がシステム部門の了承を得ることなくSaaSの利用を始めてしまうことを言う。利用部門からすれば、了承どころか通知する必要性すら感じていない。なんせIT予算を使うわけではないのだから。例えばSFAやCRMなら営業経費だ。それに最近はIT予算が減っているので、システム部門に頼んでも作ってもらえないという事情もある。かくして、顧客情報という企業にとっての最重要情報、そして個人情報が外部のサービスによって“勝手”に管理されるようになる。

 以前、行き過ぎたエンドユーザーコンピューティングが問題になったことがあったが、利用部門にもITスキルが必要だったので、一応の歯止めが利いた。顧客情報なども利用部門のサーバーとはいえ社内で管理された。やがて利用部門ではサーバーを管理しきれなくなり、ギブアップ。システム部門の管理下に移った。そして最近では、サーバー統合で仮想化され、プライベートクラウドの環境に移行しつつある。

 ところがSaaSだと、こうはいかない。なんせ手軽で安くて便利。しかも手間がかからないから、利用部門は使い続けるだろう。そのうちPaaSあたりにも手を出して、自らアプリケーションを作り出すかもしれない。各利用部門が同じサービスを利用することは考えにくいから、将来システム部門が内製化しようとしても、データがバラバラで統合するのは至難のわざになる。それに、内製化すると利用部門が負担する配賦額は、SaaS料金より高くなるのは間違いないから、利用部門は納得しないだろう。

 そんなわけでSaaSの勝手導入は、ユーザー企業にとっては大問題だ。クラウド時代に向けた最大の課題と言ってよい。システム部門はどうして気付かないのだろうと思っていたのだが、ようやく真顔で心配する人が現れた。でも、心配してもどうにもならない。これはITガバナンスの問題だからだ。もともと日本企業はITガバナンスが弱いから、システム部門には利用部門の“暴走”を止めるすべがない。

 実は、それをいいことに、ITベンダーは二枚舌でクラウド商談を進めている。システム部門に対しては、「情報システムのサイロ化を解消するために、プライベートクラウドを構築しましょう」と持ちかける。一方、利用部門に対しては「今はスピードが重要です。システム部門の対応を待っていられませんので、ここはSaaSを活用しましょう」と社外にサイロを作ることを勧める。

 以前からそうした売り方をしていたと言えばそれまでだが、SaaSはシステム部門を完全無視して売り込める商材のため、その傾向がますます顕著になっている。まあ、システム部門が勝手導入の問題に気が付いていない時なら、あこぎだが商売の手口としてありかもしれない。しかし、この問題の深刻さが広く知られるようになりつつある今、そんな売り込みを続けているとユーザー企業は不信感を募らせるだろう。

 では、どうすればよいか。目指すはクラウドインテグレータである。パブリッククラウドの構築・運用と共に、他社のSaaSなど主要なパブリッククラウドを一元的に提供できる体制をまず整える。さらに、システム部門が利用部門に許可するSaaSの推奨リスト作りを支援する。ユーザー企業の経営陣に勝手利用の問題を理解させ、ガバナンス強化をコンサルティングする。SaaSとプライベートクラウドの連携サービスや移行サービスも充実させる、などなどだ。

 要は、以前からITベンダーが目指すと言っていた、真の意味でのソリューションプロバイダ、あるいはユーザー企業にとっての真のパートナーになればよい。結局のところ、クラウド時代になっても、勝ち残るのは、顧客の一番近くにいるITベンダーであることに変わりはない。もちろん、新たなビジネスモデルの確立がその前提ではあるが。