前回は、資金決済法が電子マネー(前払式支払手段)に与える影響について言及しました。しかし、電子マネーとの関係が検討されている法律は、資金決済法のみではありません。

 電子マネー(前払式支払手段)と関連する法律としては、出資法や銀行法もあります。そこで、電子マネー(前払式支払手段)とこれらの法律との関係も整理してみようと思います。

1 電子マネー(前払式支払手段)と出資法の関係

 出資法との関係では、電磁的に記録された金額情報を得るために支払った金銭が、出資法上の「預り金」に該当しないか否かという点が問題となります。出資法は、「預り金」に関し、以下のように規制しています。

(預り金の禁止)
第2条 業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
  • 預金、貯金又は定期積金の受入れ
  • 社債、借入金その他何らの名義をもってするを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの

 このような規制が設けられた趣旨は、一般大衆から預り金の受入れを行ったにもかかわらず、受入れをした事業主が破綻すると、一般大衆に不測の損害を及ぼすことになること、及び、社会の信用制度と経済秩序を乱すことになるためです。

 そのため、出資法第2条は、一般大衆の保護と信用秩序の維持の観点から、他の法律において特別の規定のある者(例えば、銀行法に基づく銀行等)を除き、「預り金」を禁止し、違反した者に対しては、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれを併科するという罰則も設けられているのです(同法8条3項1号)。

 では、電磁的に記録された金額情報を得るために支払った金銭が、出資法第2条の「預り金」に該当するのは、どのような場合なのでしょうか。電磁的に記録された金額情報を得るために支払った金銭が「預金、貯金又は定期積金の受入れ」(出資法第2条第2項第1号)に該当しないとしても、「預金等と同様の経済的性質を有するもの」(出資法第2条第2項第2号)に該当すれば同法に違反します。

 この点について、金融庁のガイドラインでは、次の4つの要件のすべてに該当する場合、「預金等と同様の経済的性質を有するもの」に該当するとされています(こちら)。

  1. 不特定かつ多数の者が相手であること
  2. 金銭の受け入れであること
  3. 元本の返還が約されていること
  4. 主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること

 また、実際の裁判でも、以下のように、前述のガイドラインと同様の判断をしています。

大阪地裁平成13年9月14日判決
「預金等と同様の経済的性質」とは、元本の返還を約する金銭の受入れで、金銭の価値ないし価額の保管の目的をもって、主として金銭を提供した者の便宜のためになされるものをいう。

 前述のガイドラインや裁判例からすると、利用者に対し、元本の返還を約束する方式で、一般的な換金を認める方式の電子マネー(前払式支払手段)は、前回説明した資金決済法第20条第2項の払戻しを原則として禁止する規定に違反するだけではなく、出資法の「預り金」の規制に関する規定にも違反する可能性があるのではないかと思います。

 ゲーム会社の主催するオンラインゲームの利用規約等で、購入した通貨について、利用者からの返金に応じない旨の条項が盛り込まれていることがあります。このような条項について、企業が利用者からの返還請求を免れるための口実であると考える方もいらっしゃるかもしれませんが、出資法違反とならないための企業の配慮と見ることもできるのではないでしょうか。