日経コミュニケーションは4月23日に、「ライフログ・サミット2010」というセミナーを開催する(詳細はこちら)。このセミナーを企画したのは、インターネットの世界で圧倒的な支配力を誇る米グーグルの「ITビジネスにおける一人勝ちを止める策」を考えるきっかけとしたかったからだ。

 インターネットの世界におけるグーグルの存在感は日を追うごとに増すばかりである。検索サービスの使いやすさと精度で他社を圧倒。地図やメール、スケジュール、チャットなど万人が必要とする機能を提供することで、グーグルのサービスから離れられないようにしている。

 Androidによってモバイルの世界にも進出。生活のあらゆるシーンで、グーグルのサービスが使われるようになってきた。

 グーグルの戦略やその創造力を見るにつけ、日本の企業が付け入る隙はないように思える。インターネットのサービスは、他の産業と比べて先行者利益が大きい。検索や地図など、グーグルが先行するサービスを追っても、勝ち目があるように思えない。実際、資金力と技術力を備えた米マイクロソフトですら、グーグルの牙城を切り崩せないでいる。日本の企業が同じ土俵で戦っても勝ち目はないだろう。

 とはいえ何もしなければ、インターネット・サービスの世界におけるグーグルの支配力は増すばかり。この状況を変えるためには、グーグルがまだ手を付けていない、あるいは、手を出せない領域で勝負するしかない。

グーグルのサービスにも盲点はある

 現在のグーグルの検索サービスは、文字中心、非リアルタイム、グローバルという三つのキーワードでくくれる。

 文字中心は、インターネット上の文字情報を解析し、これを使って検索できるようにしているということ。YouTubeのような動画サービスもあるが、「検索」という視点では映像に付加されたタグ情報のみを対象としているため、結局のところ文字情報の解析でしかない。類似性をマッチングして画像を検索する「Google Goggle」のようなサービスもあるが、まだまだ実験的なレベルにとどまる。

 非リアルタイムは、時々刻々上がってくる情報への検索性が弱いということ。一部のニュース・サイトやツイッターなどグーグルがウォッチしている一部のデータはほぼリアルタイムで検索できるが、これは日々生成・更新される大量なデータのほんの一部に過ぎない。世界中で日々更新される情報や人々の活動をリアルタイムで検索できるわけではない。

 グローバルは、グーグルの検索エンジンが、インターネットにつながる全員にとって均質な検索サービスとなるようにチューンされているということ。その裏返しとして、位置という物理的なつながりや、趣味などの社会的なつながりを考えた検索が得意ではない。確かに、Google Mapsの検索で位置情報を使った検索は実行できるものの、得られるのはお店の静的な情報までだ。例えば、自分の住んでいる場所で「今、卵が一番安いスーパー」を探し出すのは難しい。

ライフログをビジネスに生かせ

 グーグルの一人勝ちを止めるには、こうした隙を突くサービスを提供することが重要だと思われる。つまり、文字ベースであってもグーグルが検索インデックスを作れない情報、または文字ではない情報の検索を志向し、リアルタイム性が高くローカル性をも狙った情報を提供するのだ。

 記者はこうしたサービスのカギになるのが、「ライフログ」と呼ばれる種類のデータだと考えている。ライフログは、人が生活していくうえでネットワーク上に残っていくログ・データのこと。ツイッターのつぶやき、ブログの更新履歴、送受信したメールの内容のほか、鉄道の改札の入出記録、GPSの位置情報の履歴、コンビニエンス・ストアやスーパーでの購買履歴、投薬や処方箋の履歴などが含まれる。

 こうした情報の多くは、グーグルが検索のベースとするようなハイパーリンクの情報ではない。インターネット上に公開されず、ある組織やコミュニティに閉じて活用される場合が多い。つまり、グーグルがすぐには手出しできないわけだ。

 しかも、ライフログを活用すれば、リアルタイム性が求められるシーンで、グーグルの既存のサービスを上回るサービスを提供できるだろう。例えば、精度の高い電車の乗り換え検索サービスを考えてみる。人の乗降記録や移動履歴を見れば、電車の遅れ時間などが分かる。こうした運行状況を加味して、今から目的地に最も早く着く方法を割り出すことができる。

 さらに、ローカル性も出しやすい。どのように実現するのかは置いておくとして、ライフログを使えば、例えば地域で最も卵が安い店を探すことができそうだ。具体的にはユーザーの買い物ログをネット上に集約。このログをうまく使えば、近所で最も卵が安い店を検索できる。様々なライフログが位置情報とともにネット上に集約されれば、ローカル性を意識した様々なサービスが実現する可能性がある。

 もちろん、グーグルもライフログの活用に向けて着々と手を打ちつつある。Androidのソースコードをオープンかつ無償で携帯電話機メーカーに提供し、Android端末の輪を広げることで、自社のサービスにリアル世界の様々な情報を収集しようとしている。米国ではクレジットカード業界や医療業界、電力業界との連携も進めており、様々なタイプのライフログを集めようとしている。日本企業としては、グーグルがこうした情報で覇権を握る前に、日本でビジネスモデルを確立し、それを持って一刻も早く海外展開すべきだろう。

 冒頭で紹介したライフログ・サミット2010では、ビジネスの観点からライフログの可能性を考える機会を提供したいと思っている。ITジャーナリストの佐々木俊尚氏にライフログ・ビジネスの全体像を語ってもらうほか、NTTドコモに経済産業省の情報大航海プロジェクトで取り組んだ先駆的ライフログ・サービス「マイ・ライフ・アシスト」の詳細を語ってもらう。ツイッターの活用法、グーグルの戦略についてのセッションも設けた。また、ライフログの活用を進めれば進めるほど、ユーザーのプライバシを侵害する可能性が高くなる。そこで、IT法務の第一人者である牧野二郎弁護士と、こうした問題を議論する。興味のある方はぜひ参加してほしい。