建物のリフォームやサービスのリニューアルなど、古いものから新しいものへの変化には、通常は少なからず期待や楽しみが伴うものだ。ところが、ソフトウエアのバージョンアップについては、これがまるで当てはまらない。

 日経コンピュータ4月14日号の特集「バージョンアップを賢く乗り切る」のために、約30の企業・団体を取材した。取材時に聞こえてくるのは、「バージョンアップ作業は面倒なだけ」「バージョンアップしないで、今のバージョンをずっと使い続けたい」など。バージョンアップに対して、後ろ向きなコメントばかりだった。

「新機能」はどうでもよい

 それでもバージョンアップをしなければならない理由は何か。多くの企業は、ソフトウエアの保守サポート切れや、ハードウエアの切り替えを理由に挙げる。

 前者は、メーカーのセキュリティパッチ配信やバグ修正などのサポートが打ち切られることだ。延長サポートの期限が切れると、安全性を確保するために、新しいバージョンへの切り替えを迫られる。

 後者は、サーバーソフトの古いバージョンが、入れ替え後のハードウエアに対応していないケースである。古いバージョンのソフトをそのまま新しいハードウエアで動かせないため、ハードウエアの切り替えのタイミングで、新しいバージョンに移行しなければならない。

 ソフトウエアメーカーは、新しいバージョンを投入する際には、バージョンアップで新機能を利用できるメリットを強調する。主要製品がバージョンアップされると、我々をはじめメディアも報道する。しかし、今回の取材を通じて、「新機能」をバージョンアップの理由に挙げる企業はほとんどなかった。バージョンアップをすすめるソフトウエアメーカーと、バージョンアップをしたがらないユーザー企業との温度差を、改めて感じた。

 ソフトウエアのバージョンアップが嫌われる理由の一つは、こんなところにありそうだ。ユーザー企業は、古いバージョンでも、システムが安定稼働していて特に不都合がなければ、同じバージョンを使い続けても構わない。おそらく、保守サポート期間が永久に続くのであれば、バージョンアップをしないユーザー企業が大半になるのではないだろうか。

 だが、必ず保守サポート期限が到来する。ユーザー企業にとっては、どうしても「メーカーの方針に振り回されてバージョンアップする」というように映る。