どんなユーザー企業にもレガシーシステムというやつがある。随分前に構築・導入したシステムで、開発当時を知る技術者がほとんどいなくなった結果、運用・保守が大変、だけどブラックボックス化したシステムの移行はもっと大変----そんな負の遺産である。従来はメインフレームやオフコンの専売特許だったが、気が付けばオープンシステムのレガシー化も進んでいる。

 オープンシステムと言っても、もはや20年以上の歴史があるから、メインフレームと同様にレガシー化するのは当たり前。ただ“オープンレガシー”はある意味、メインフレームのそれよりも始末に負えない。メインフレームなら、製造したITベンダーが今でもそれなりの責任を持って対応してくれる。リプレースを狙う他のベンダーからもマイグレーション提案が寄せられたりする。一方、オープンレガシーは・・・。

 困ってしまうのは、市場競争やITベンダーの一方的都合により消え去ってしまった技術や製品に依存しているケースだ。オープン系はクライアント/サーバーの全盛期からWebコンピューティングの時代を通じて、多くのベンダーが市場支配を夢見て様々な技術・製品を投入し、そして消え去っていった。まさにあちらこちらに墓碑銘が建っている。中には事実上の標準と言われながら、事実上の標準になれなかったものもある。

 そんな技術や製品をインフラに、独自の業務システムを構築して幾年月、いつの間にか当時を知る人もいなくなり・・・これがオープンレガシー誕生の物語だ。そして、それはユーザー企業の情報システム部門にとって栄光と挫折の物語でもある。

 オープンシステムの大きな可能性が見えた1990年代初頭から、多くのユーザー企業がメインフレームやオフコンからUNIXサーバーやパソコンに業務システムを移すこと試みた。あるいは全く新しいアプリケーションの構築にチャレンジした。長年のベンダーロックインから自らを解放し、最新技術を自らセレクトし、自らの手でシステムを構築する。それは長年の夢や理想の実現である。ユーザー企業のIT部門が光り輝いていた時代だった。

 ところが、そんな栄光は長く続かなかった。やがて上陸した欧米のERPをカスタマイズしようという無謀な試みに時間とリソースを浪費している間に、IT部門は最新インフラへの対応能力を失ってしまった。そうしてERPの構築がひと段落すると、多くのIT部門が人員削減を行った。技術・製品に対する目利き能力は衰え、オープン系では不可欠のアーキテクトも育てられなかった。

 そんなわけだから、オープンレガシーが誕生したのは、依存した技術・製品が消滅したからだけではない。よく「ITベンダーに騙された」という人がいるが、それは大きな間違い。オープンシステムを選ぶということは、勝ち馬に乗らなければならないということだ。負け馬に乗ったとしたら、それは目利き能力のない「あなた」が悪いのだ。まさに、オープンレガシーの存在はIT部門の理想や夢の墓碑銘でもある。

 さて最後にITベンダー側に話を変える。勝ち馬に乗れないのはあなたが悪いと書いたが、それはユーザー側の問題であり、売ってしまったベンダーの免罪符にはならない。「これからは業界標準のこれを使ってシステムを構築しましょう」と口車に乗せたのだから、その始末はつけなければならない。そうでないと、「これからはクラウドを活用しましょう」と提案しても、ユーザー企業は相手にしてくれないだろう。