IT関連企業の新人研修でネットワークの基礎を学ぶ人は多いだろう。ネットワークや通信を学習するときに必ず最初に出てくるのが、通信の機能や役割を整理したOSI基本参照モデルである。通信に欠かせない機能をレイヤー1~7の七つに分類したものだ。

 筆者は普段いろいろな仕事をしていて、「仕事をする」ことと「コミュニケーションをとる」ことは、ほとんど同じだと感じている。レイヤーが通信(コミュニケーション)に欠かせない要素だとしたら、それはそのまま仕事をする上で欠かせない要素と考えることができるはずだ。

 そこで新社会人に向けて、通信のレイヤーから学べる仕事のコツを紹介したい。通信の仕組みと仕事のコツを同時に身につけてしまおう。多少強引なところや、個人の業務内容によってはあまりあてはまらないものもあると思うが、そこはご容赦いただきたい。「レイヤーって何?」という人は、これを機会にぜひ学んでほしい(参考記事)。

自分の目で見ることが大事

 コンピュータで処理するデータは、すべて0と1からなるデジタルデータである。通信をするには、このデジタルデータを送り出して相手に伝えなければならない。その役割を果たすのがレイヤー1(物理層)である。実際は、より対線ケーブルや光ファイバーがこの役割を担っている。物理層は、すべてのレイヤーの基本となるものだ。

 このレイヤー1から学べるのは、「すべての基本は自分で実際に見たことや感じたこと」ということである。今は、インターネットで検索すれば膨大な情報が手に入る。そういう時代だからこそ、「体験」が貴重になると筆者は感じている。みずから実際に(物理的に)見て聞いて感じたことこそが、自分自身を高めることにつながり、それがそのまま会社の資産になる。

「お隣さん」を大切にする

 レイヤー2(データリンク層)は、「隣のコンピュータまでデータを届ける」という役割をもつ。ここでの「隣」とは、LANで通信できる範囲のこと。例えば、イーサネットがレイヤー2技術の代表である。

 このレイヤー2からは、「お隣さんを大切に」ということが言える。どんな仕事であれ、自分ひとりで完結するということはほとんどない。入社直後の人間関係は、隣にいる同僚や先輩、経理部門の担当者など、社内の小さい範囲になるかもしれない。しかし、こうした身近な人としっかりコミュニケーションをとることが、将来大きな仕事に取り組むうえで欠かせない要素となる。

仕事の「目的地」を考える

 実際の通信では、目的のコンピュータが必ずしも隣にあるとは限らない。そこで「データを目的地まで届ける」という役割が必要になる。この役割を担うのがレイヤー3(ネットワーク層)である。インターネットの中核プロトコルであるIP(Internet Protocol)がこれにあたる。

 会社にいると大小さまざまな仕事を任される。そこで大切なのが、どんな仕事であれ「目的をはっきりさせること」である。最初は、毎日の日報や報告書を書くことが仕事になるかもしれない。こうした小さいことでも、「これをする目的は何か?」と考えると的を外した文章にはならず、自分の今後の成長にもつながる。

仕事の「品質」を意識する

 通信では、送ったデータがすべて目的地に届くとは限らない。そこで必要になるのが「データの品質を管理する」という役割である。これがレイヤー4(トランスポート層)で、品質重視のTCP(Transmission Control Protocol)と、速度重視のUDP(User Datagram Protocol)の二つが代表だ。

 しばらくすると、仕事は問答無用でどんどん降ってくるようになる。こうしたときに大切なのが「頑張るもの」と「力を抜くもの」の見極めだ。

 すべての仕事を完璧な品質で仕上げるに越したことはない。ただ現実は、そうはいかないことが多々ある。例えば、社内会議向けの説明資料の作成では、概要がわかる部分だけを作ってあとは口頭で補えばいいものもあるだろう。ときにはこうした「品質管理」も大切である。

まずは手順や形式を真似てみる

 残りのレイヤーとしては、データをやり取りする手順を定めたレイヤー5(セッション層)、データの形式を定めたレイヤー6(プレゼンテーション層)、アプリケーションが扱うデータの内容を定めたレイヤー7(アプリケーション層)がある。インターネットの世界ではこの三つをまとめて「アプリケーション層」として定義している。

 実際に部署に配属されたら、おそらく最初はわからないことだらけだろう。そんなときは、とりあえず上司や先輩が使っている「手順」や「形式」を真似てみることから始めてみるといいだろう。組織や人に根付いたやり方というのは、それなりの理由がある。こうしたやり方を真似ることは、組織や人を理解することにつながる。おのずと仕事で扱っている「内容」の理解も進んでいくだろう。

 仕事をするうえで悩んだときや行き詰まったとき、自分はどのレイヤーの意識が足りないのかを考えてみると、解決のヒントになるかもしれない。新社会人の奮闘を応援している。

 筆者は1年間にわたってITpro/selfupでスキルアップを応援する記事を中心に書いてきた。私事で恐縮だが、2010年4月1日付で日経エコロジー編集部へ異動した。仕事で扱う内容はこれまでと違ったものになるが、上で挙げた仕事の心得は、新しい部署でも役立つと思っている。この記事を、筆者のように新天地で働くことになったビジネスパーソンにも役立てていただければ幸いである。