昨日出席した、日本AMDの12コアプロセサ「Opteron 6000シリーズ」の記者発表会で、興味深い話を聞いた。会場の一角には、仮想化したデータベース・サーバーの処理性能を新プロセッサ上で検証したデモ環境があり、このベンチマークを実施した日本仮想化技術の宮原徹氏(代表取締役社長兼CEO)が「12コアプロセサの登場で、データベース・サーバーの仮想化とサーバー統合が進むのではないか」と話していた。

 仮想化技術に詳しい読者はご存知だろうが、データベース・サーバーは「仮想化に不向きなもの」の一つとされている。理由は後述するが、かつては半ば常識のように考えられていたことであり、宮原氏の言葉に筆者は少々驚いた。

 もちろん、最近はデータベース・サーバーの処理量や処理パターン(プロセサ処理とI/O処理の構成比など)を考慮して、一部のデータベース・サーバーを仮想化する動きが出てきている。必ずしも「仮想化に不向き」とはいわれなくなったが、それでもまだ敷居の高さを感じることが多いのではないか。

プロセサとメモリーのリソースに大きな余裕

 これまで、データベース(DB)サーバーが「仮想化に不向き」とされてきた主な理由はこうだ。一般にデータベース・サーバーは、プロセサ、メインメモリー、ディスクI/O、ネットワークI/Oなどのハードウエア・リソースを大量に消費する。このため、データベース処理のために1台のサーバー機のリソースが占有されてしまうことが多く、「複数のサーバーを仮想化して1台に統合する」という仮想化の目的には不向きとされてきた。また、性能を重視するデータベース・サーバーでは、仮想化レイヤーで発生するオーバーヘッドを気にする声も多かった。

 こうした状況の転機となるかもしれないのが、最大12コア搭載のOpteron 6000シリーズの登場である(関連記事)。データベース・サーバーの仮想化にとって有利な特徴としては、次のような点がある。従来のAMD製品と比べ(1)コア数が2倍になった、(2)搭載可能なメモリー・モジュール(DIMM)数が1.5倍の12個になった、(3)メモリー・アクセスの帯域幅が2.5倍になった、(4)4ソケット構成が可能なプロセサを従来の2分の1程度の価格で提供する(2ソケット対応のプロセサと同じ価格帯)――などである。

 プロセサやメモリーのリソース、処理性能、拡張性に余裕があるので、「データベース・サーバーのスケールアップが容易。仮想化レイヤーのオーバーヘッドが気になるなら、仮想マシンに、より多くの仮想プロセサ(プロセサコア)を割り当てればよい。メモリー・アクセスが高速になったのもデータベース向き」と宮原氏は語る。

 日本仮想化技術が実施した性能検証でも、プロセサとメモリーの性能が結果に影響するというTPC-Bベンチマーク(検索処理のみ)で好結果を示した。システム構成は、Windows Server 2008 R2+Hyper-V 2.0という仮想環境上で、SQL Server 2008 SP1を6つの仮想マシン(それぞれ4仮想CPUと4Gバイトのメモリーを割り当て)で稼働。従来の6コアプロセサ(Opteron 2435、2.6GHz動作)で構成した環境に対し、新しい12コアプロセサ(Opteron 6174、2.2GHz動作)で構成した場合では、コア数の増加に比例した約2倍のパフォーマンスが得られたという。

近い将来、ディスクI/O性能の向上にSSDの利用も

 ただし、サーバー仮想化(特にデータベース・サーバーの仮想化)でボトルネックになりやすいのはディスクI/OやネットワークI/Oである。ベンチマークはプロセサとメモリーの性能検証を目的としているため、その辺を考慮して見る必要があるだろう。12コアのプロセサを利用しても、サーバー機のディスク/ネットワークのI/O性能が従来のままでは、プロセサの性能を生かしきれないこともあるからだ。

 この点については、引き続きデータベース・サーバーの処理量や処理パターンを吟味して仮想化を検討する必要があるが、以前よりは適用範囲や設計の自由度が広がるだろう。

 また、ディスクI/Oについて宮原氏は、「SSD(Solid State Drive)を利用する手もある」と話す。SSDは、まだサーバー分野では一般的とは言いがたいが、ディスクI/Oのパフォーマンスアップには大きな効果を発揮し得る。サーバー分野でSSDを組み込んだストレージシステムが出始めており、これから楽しみな技術である。

 12コアプロセサの登場は、データベース・サーバーの仮想化を進めるうえでのピースの一つであり、それだけで状況が一変するようなものではない。ここでは触れなかったが、SSDのほかにも仮想化レイヤーのオーバーヘッドを小さくする技術や高可用性技術など、ハードとソフトの両面でサーバー仮想化に寄与する技術がいろいろある。技術的な制約がないわけではないが、それら技術の総合力をもって、これまで「不向き」とされていたデータベース・サーバーの仮想化を進めていくことになるのだろう。

 冒頭で紹介した「データベース・サーバーの仮想化が進むのではないか」という宮原氏の発言も、そうした技術動向を踏まえた話である。「当面は、古い世代のデータベース・サーバーが仮想化の対象になる」(同氏)とのことだが、1~2年後にはまた違う状況になっているかもしれない。仮想化分野では、“常識”が変化するスピードが速いからだ。

 なお、4月14日に都内で開催される「ユーザーのための仮想化フォーラム2010」において、宮原氏は「サーバーからデスクトップへ広がる仮想化技術の活用法」と題して特別講演を行う。興味のある方は、ぜひご来場いただきたい。