前回は、パートナー選定時の実績の重要性について解説した。すなわち「システム開発では多くのユーザーがパートナーを選定するが、どこのIT企業を決めるにせよ“その案件ができる”ことが大前提である。それには、IT企業がその案件もしくはその案件の類の実績があるかどうかで判断することである。システム開発の場合だと『システムの開発の実績があるか』『使用するソフトウエアの使用実績やシステムの稼働実績があるかどうか』が鍵である。そこをしっかり確認しておけば、開発時に大きなトラブルに遭ったりスケジュールが遅れたりすることがほとんどどない」。

 大体このようなことを述べた。今回は、ユーザー企業の担当者がシステム開発でベンダーを選定する際に「IT企業が実績があるかどうか」、それを見極める注意点について述べる。

実績の度合いの判断が必要

 ユーザー企業の担当者はIT企業のシステムの開発や運用の実績を知るために、営業担当者やSEに質問することになる。だが、IT企業の担当者が「当社には○○の実績がある」と言っても、その中身は千差万別である。「○○アプリケーョン開発の実績がある」と言っても、要件定義や設計なのか下流工程が中心だったのかでは意味合いがだいぶ異なる。「稼働実績がある」と言っても、ネットワークの規模やデータ量が違えば必ずしもシステムが安定稼働するとは限らない。また「△△SEはプロジェクトの経験がある」と言っても、プロジェクトマネージャ(PM)やリーダーだったのか一メンバーだったのかによって、レベルが異なる。

 従って、IT企業の営業担当者やSEが「実績がある」と言っても、ユーザー企業の担当者は実績の内容やその度合いを判断する必要がある。もちろん、長年一緒に仕事をして仕事のやり方や考え方がよく分かって信頼している営業担当者やSEのケースは別である。彼らの言葉を信じてよい。以下、そうでない場合のシステム開発・運用の実績の把握の仕方について説明する。

システム開発はPMの実績で判断

 まず、IT企業の“システム開発の実績”について。これは、発注後に実際にプロジェクトを担当するPMの実績を見ることが不可欠である。プロジェクトの正否はPMの力量に左右される。IT企業に企業として実績があっても下手なPMをアサインされたら大変なことになる。そんな事例はIT業界には少なくない。情報システム部の部長などは往々にして「○○企業は同業他社で実績があるから大丈夫」と考えやすいが、それは厳禁である。ユーザー企業は実際にプロジェクトを担当するPMが、どんな経験をしてどんな実績があるかを知り、それを通じて力量を客観的に判断することが重要である。

 その一番良い方法は、提案書のプレゼンテーションや打ち合わせを、PMを務める予定のSEにやってもらうことだ。その場を通じてPMの実績や力量を判断しやすいからである。実際、ユーザーの中にはそれをIT企業に要請しているところもある。IT企業の営業担当者やSEが言う「彼はこんな経験や実績がある」という言葉だけでは、当たり外れが少なくない。そんな経験を持つ読者も結構多いと思う。ただ、IT企業の中には提案書を作ったりプレゼンテーションを行ったりするSEと、システム開発時のSEが異なる企業がある。そんなIT企業はユーザーからのこうした要請には困ると思うが、それは彼らの論理である。ユーザーはそれに負けないことだ。それに応えられないIT企業は、引き合いから落としても構わない。これは、開発を下請けに任せることが多いSI企業のケースでも同じである。形ばかりの元請けのPMの実績や力量を見ても意味がない。