山崎豊子氏原作のテレビドラマ『不毛地帯』が、先日(2010年3月11日)最終回を迎えた。このドラマは、第二次大戦中に大本営参謀を務めた主人公の壱岐正が、シベリア抑留を経て、総合商社で数々の商談をものにし、出世していく軌跡をつづったものだ(以下には、物語の核心となる記述が出てくるのでこれから最終回をご覧になる方は、お読みにならないで下さい)。

 「営業団体戦」というテーマの特集記事に取り組んでいた最中に見たこともあり、この最終回には琴線に触れるシーンがあった。副社長に上り詰めた主人公が、自分を取り立ててくれた社長に経営から退くよう進言し、自分も社長とともに辞す意思を明かす場面だ。驚いた社長から「わしも君もいなくなったこの会社はどうなる」と尋ねられた時、主人公が口にしたのが「次の世代が育っております。組織です。これからは組織で動く時代です」という言葉だった。並外れた知力やエネルギーを備えた人材がけん引しなくても、社員それぞれが持つ力や個性を発揮することが成果を創出するような組織を育ててきた、というわけだ。

 確かにこのドラマには、大規模な石油開発プロジェクトを提案し実現させた部下や、一度は失敗した外資系企業との提携を粘り強く実現させた部下らが登場していた。

組織営業の鍵は、ITツールでも「ノミュニケーション」でもない

 『不毛地帯』の主な舞台は終戦直後から1970年代後半の日本の産業界だ。それからおよそ30年間、多くの企業は実際に「組織で動く営業」の体制を整えてきた。例えば、市場の動向を分析するマーケティング部門や、顧客の声を吸い上げるコールセンターを設けるなどの体制を作った。読者の中には、営業担当者と技術担当者のチームでソリューション営業を展開している方もおられることだろう。

 複数の部門が協力し合って組織営業を進めるうえで、IT(情報技術)ツールは重要な武器になると考えられてきた。例えば、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムを導入し、営業担当者が顧客にアプローチした履歴を全社共有することで、ほかの社内部門からの支援を得やすくしようという取り組みはその一例だ。コールセンターや苦情対応窓口が持つ顧客とのやり取りの情報を、営業部門が活用するよう促している例もある。

 しかし、こうした情報共有の仕組みを作るだけで組織営業を強化できるかどうかについては、疑う余地がある。「営業担当者が顧客への訪問情報を入力しても、日常業務に追われる他部門の社員からほとんど参照してもらえない例は多い。営業担当者がさぼっていないかを上司がチェックするだけの使われ方になってしまった事例もある」。アクセンチュアでCRMグループを統括する石川雅崇エグゼクティブ・パートナーはこう指摘する。

 すなわちITツールによって情報共有の枠組みを作るだけでは不十分であり、組織の壁、さらには意識の壁を壊す工夫も必要ということだ。組織の壁は薄くとも、個々が目先の自分の仕事で手一杯なために、他部署との連携に消極的なケースもあるだろう。