また間が開いてしまって申し訳ありません。

 ちょっと古い話ですが、年末頃に「電子工作コンテスト」なるイベントに出掛けました。普段あまりイベントは行かないのですが、今回は審査員ということと、「工作」という普段あまりかかわりのない分野でもあるので、出掛けて行きました。私も同じ年代のエンジニアにありがちの、「箸を握るよりも先にペンチやドライバーを握った」部類ですので、なかなか楽しいものです。

 いろいろな空気がソフトウエアのイベントとは違うのですが、やっぱり「作る」ということについての熱意は、形がある分だけよく伝わって来ました。と言いますか、やっぱり「形がある」というのは、イベント的にはおいしいですね。

 原則的にアマチュア対象のイベントですが、ご多分に漏れず「趣味と仕事が同じ」な人が多数いて、「プロの犯行」としか言いようがない作品は、そのままお店に並んでいてもまったくおかしくない完成度のものがありました。ただ、「基本アマチュアの自作のコンテスト」ということで、そういった完成度だけではなくアイディアとか面白いものも評価したつもりです。

 主催者は来年もやるつもりらしいので、「ラジオ少年上がり」な人はチャレンジしてみると楽しいと思います。

FLOSSを作るということ

 今回はFLOSS(Free/Libre and Open Source Software)を作るという話です。

 「作る」というのは、実は複数の立場があります。一つは「自分で作る」ということ、もう一つは「身内の誰かに作るように依頼する」ということです。どちらも、第三者から見れば「作る」という意味では同じですし、主観的には違うことです。

 今回は前編ということで、「自分で作る」ほうのお話をしたいと思います。

FLOSSを作りはじめるにあたって

 「個人が自分で作るFLOSS」というものは、「フリーソフトウエア(自由なソフトウエア)」とほぼ同義です。この連載で何度も「オープンソースはビジネス用語」と言って来ていますし、実際にそういった側面は多くなっています。しかし、個人から見ればフリーソフトウエアと同義です。個人の力だけでFLOSSのビジネスをやるのは、いまだ適当なビジネスモデルがありません。「売れるソフト書いてウハウハ」のような、一昔前のビジネスモデルは、商用のソフトウエアでも難しくなってなって来て、個人の手に負えるようなものではなくなってしまっています。ですから、「個人が自分で作るFLOSS」は、少なくとも最初のうちはビジネスについて考えることは、ムダな労力と言ってしまってもいいでしょう。

 ですから、「個人が自分で作るFLOSS」を作るにあたって、ビジネス的な視点はなくても構いません。つまり、「作りたいものを作りたいように作る」だけで十分です。よく、他で既に作られているようなものを改めて作ることを、「車輪の再発明」という言葉で否定的に語られます。しかし「作りたいものを作りたいように作る」という意味では、別に「車輪の再発明」でも何の問題もありません。むしろ、車輪を再発明することによって、車輪を先に発明した人のことを追体験できるわけですから、勉強としてもそう悪いことではありません。冒頭で書いた「電子工作コンテスト」でも、「それ、家電量販店で5000円くらいで売ってない?」と思うようなものが表彰されていました*1。確かに「ものの価値」という意味ではそうかも知れませんが、「作りたいものを作りたいように作る」ということでは文句なしですし、そこへの思い入れも注ぎ込まれた技術も物凄いものでした。

 もちろん、過去にこの連載でも書いているように、「生き残るオープンソース*2」という意味であれば、「個人が自分で作るFLOSS」であっても、いろいろな現実や市場性を意識することは必要です。「みんな使ってくれ」というのであれば、それなりに意識するべき物事は増えて来ます。とは言え、ソフトウエアを作ることは「自己表現」の一つでもあります。「俺が欲しかったから」という動機が悪いわけではありません。

*1 Rev8.0 【有機ELディスプレイ付きインナーイヤープレーヤ】

*2 生き残るオープンソース - 生越昌己のオープンソースGTD