IT政策に関する意見をインターネットで募集、議論する“ネット審議会”「経済産業省アイディアボックス」が2010年3月16日、投稿受け付けを終了した。システム費用は前回の約700万円に対し、今回は90万円。この劇的なコスト削減は、アイディアボックスに参加した国民との対話から生まれた。

第1回アイディアボックスはSalesforce、終了後はデータで公開

写真●経済産業省アイディアボックス
写真●経済産業省アイディアボックス
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 経産省が最初にアイディアボックスを開設したのは2009年10月。目的はインターネットを通じた、意見募集システムの可能性の実験だ。議論のテーマは電子政府だった。実施は野村総合研究所に委託され、システムはセールスフォース・ドットコムのSaaS「Salesforce CRM Ideas」を利用した。約1カ月間運用し、システム費用は約714万円だった(関連リンク:電子経済産業省アイディアボックスの実施に係る基本情報)。

 2009月10月14日から11月14日の1カ月間に1063ユーザーが登録、456件のアイディアが投稿され、各アイディアに対する7041件の賛否投票、1250件のコメントが寄せられた。終了後、アイディアボックスはSaaS契約の終了にともないクローズされ、投稿されたアイディアやコメントは、表形式のデータとして経済産業省のページで公開された。

閉鎖を惜しみ、ボランティアで閲覧専用サイトを構築

 アイディアボックスの閉鎖を惜しんだユーザーは少なくなかった。「SugarCRM日本語ドキュメントプロジェクト」のメンバーである高木祐介氏と河村奨氏もその一人だった。「政策に関する意見を相互に交換できる、面白い場所だった。なぜ終了してしまうのか、と残念に思った」(高木氏)。と同時に、経済産業省から公開されたアイディアボックスの契約情報を見て「我々ならもっと安く作れると思った」(河村氏)。

 「SugarCRM日本語ドキュメントプロジェクト」は、千葉市と早稲田大学の官学協力により実施された、SugarCRMのマニュアルなど日本語ドキュメントを作成するプロジェクトである。SugarCRMをビジネスで利用している技術者などが集まって日本語訳を行っている。河村氏はSugarCRMを活用したシステム構築を手がけており、高木氏はある企業の情報システム部に所属しSugarCRMを業務で利用していた。

 河村氏らは経産省に「寄せられた意見がデータとしてしか公開されていないのはもったいない。オープンソース・ソフトウエアを利用し、ベンダーを大手に限定しなければもっと安く作れる。また開発したアプリケーションが、ベンダーが変わると作り直しになるのはおかしい。税金で作ったものが、特定の1社のシステムに縛られることになってしまう」と訴えた。

写真●第1回アイディアボックスに寄せられた投稿を収録した「アフターアイディアボックス」
写真●第1回アイディアボックスに寄せられた投稿を収録した「アフターアイディアボックス」。SugarCRM日本語ドキュメントプロジェクトが作成した
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 アイディアボックスを企画、運営する経産省 商務情報政策局 情報政策課 情報プロジェクト室は河村氏らの意見に興味を持ち、河村氏と高木氏を呼んで意見を聞いた。そこで河村氏らはSugarCRM日本語ドキュメントプロジェクトとして、ボランティアでSugarCRMを使ってアイディアボックスを閲覧専用で再現することを提案。それが、2009年12月21日に公開されたアフターアイディアボックスだ。

 「アフターアイディアボックスは1週間でできた」と、河村氏は振り返る。河村氏が別の顧客向けに開発した掲示板モジュールをベースにすることができたためだ。「SugarCRMはCRMパッケージだと思われているが、開発環境としても優れている」と河村氏は語る。「Webブラウザ上でデータ項目名を設定するだけで、データ一覧、詳細、更新画面が生成され、それを“足場”にアプリケーションを作ることができる。利用状況を分析するダッシュボード機能もある」(河村氏)。