原口一博総務大臣が3月9日に公表した「光の道構想」が通信業界に波紋を広げている。NTTグループの再々編論議には慎重だと見られていた大臣が,「アクセス網の整備方法をめぐって,NTTグループの経営形態を議論する」という見解を盛り込んだからだ。

 大臣は,以下の三つの政策パッケージについて,5月中旬までに方向性を示す計画だ。(1)「光の道」の整備,(2)国民の「光の道」へのアクセス権の保障,(3)ICT利活用促進による「豊かな社会」の実現,---である。今後,大臣が直轄する「ICTタスクフォース」で,これらの政策を議論していく。

 三つの政策パッケージの中で,業界関係者の注目を集めているのは,(1)の「光の道」の整備だ。NTT東西地域会社から光回線設備を分離し,新しく設立する回線敷設会社に移管。各社に公平に回線を提供する公社方式を導入する,といったNTTの組織形態の変更を検討していると伝えられている。

 公社方式によるNTTの分割は,従来からソフトバンク・グループなどが要求してきたもの。回線設備を分離することで新規参入を容易にすれば,「設備の利用効率の向上と,料金競争が進展し,FTTHがさらに普及する」という論法だ。

 この主張については,「公社によるインフラの独占敷設・運用で,経営の効率性を高められるのか」「既にNTT東西以外にリスクを負って設備投資している光回線事業者はどうなるのか」といった反論もある。議論は一筋縄ではいかないだろう。NTTグループ自身は,「経営形態は現行の体制を変更する必要はない」としており,今後は事業者間の激しい意見のぶつかり合いが予想される。

インフラとサービスの連携で公共クラウドの実現目指すNTT

 筆者は,この「光の道構想」の行方を占う上で,三つ目に示された“利活用促進”の議論が,カギを握るのではないかと見ている。

 インターネットの利活用シーンでは,海外勢のGoogle,Amazon.com,Twitterなどが脚光を浴びており,日本国内のICT産業の存在感の低下が危ぶまれている。そこで総務省も,競争力の底上げが必要だとして,以前から「行政,医療,教育分野でのICT利活用強化」を重要課題に挙げてきた。

 具体的には,電子政府や遠隔医療,電子教科書といった,公共サービスをネット経由で提供するためのクラウド技術の導入を目指している。国民のほとんどが利用する公共サービスがネット上で利用できるようになれば,ICTサービスの利用者層が拡大し,市場の底上げが図れるという狙いだ。

 そこで浮上してくるのが,NTTグループが一体となって進めているクラウド戦略である。通信事業者であるNTTグループも,通信サービス以外の事業拡大を目指して,クラウド・コンピューティングにも積極的に取り組んでいる。GoogleやAmazon.comをはじめとする先行プレーヤーとの違いは,利用する通信回線やネットワーク・インフラの機能と,クラウド・サービスを連携させること。

 例えば,利用している場所など回線個別の情報を使ってユーザーを認証したり,高画質な映像が必要となる医療用に優先的に通信帯域を確保したりするといった連携を想定している。このように通信サービス並みの高い信頼性を持たせれば,公共分野へのクラウド技術の適用も安心して進められるという主張だ。

 しかし,回線設備をNTTグループから分離してしまえば,こうしたサービス開発が停滞する可能性がある。現在の組織体制が変更されれば,総務省の目指す公共サービスのクラウド化の実現も遠のく。「利活用の促進」というテーマは,そのような分離分割のけん制策になる可能性があると見ている。

 NTTグループ各社のクラウド戦略については,Webセミナーを公開している。これは,2009年12月に日経コミュニケーション主催で開催したセミナーのWeb版である。申し込みの締切は2010年3月31日で、2010年4月30日まで視聴できる。

 企業向けクラウド・サービスの中核となる,NTTコミュニケーションズやNTTデータだけでなく,NTTドコモやNTT東日本など,グループ一体でクラウド事業を推進する方向性がよく分かる。興味のある方は,ぜひご覧いただきたい。