最近、IFRS(国際会計基準)関連の取材で「IFRS」の読み方について話題になることが多い。取材先から「どう読んでいますか」と聞かれることもあるし、こちらから取材先に確認することもある。

 記者の観察では、最近多いのは「アイエフアールエス」派である。グローバルに展開するコンサルティング企業では「イファース」が多く、欧米では「アイエフアールエス」が多いようだ。とはいえ、固定した読み方はまだない。オーストラリアの方に取材した際は「アイファース」と言っていた。

 記者はIFRSを「イファース」と読んでいる。IFRSを策定しているIASB(国際会計基準審議会)の日本人唯一の理事である山田辰巳氏にインタビューした際、「IASBでは何と呼ぶのですか」と尋ねたところ「イファースです」と答えたからだ(関連記事)。

 IFRSの読み方が取材で話題になるたびに「IFRSが浸透してきた」と実感している。数カ月前までIFRS関連のセミナーや取材では、「IFRSはInternational Financial Reporting Standardsの略であり、会計処理の詳細の詳細を決めない原則主義や、長期的な企業の収益性を重視するといった特徴がある」といった話から始まることが多かった。

 最近では「IFRSとは」という導入部の話が極端に減った。代わりに「IFRSが経営に与える影響」や「IFRS対応の勘所」といった話題に直接入るケースが増えている。IFRSの読み方が取材で話題になるのも「IFRSとは何か」よりも「IFRSとどう向き合うか」を考える段階に差しかかっているからではないかと記者は考えている。

欧州の事例は参考にならない?

 IFRSの読み方とともに最近、取材でよく話題になるのは「日本企業にとって、欧州の事例は参考になるか」である。2005年からIFRSが強制適用(アダプション)になったこともあり、「IFRSといえば欧州が先行している。欧州企業の対応を見習おう」という話で半年前はもちきりだった。

 だがここに来て、欧州企業のIFRS対応プロジェクトの事例は「日本企業には参考にならないのでは」という意見もちらほら出てきている。理由の一つにIFRS対応プロジェクト期間の違いがある。

 日本企業の準備期間は最短でも4年弱ある。日本の上場企業は早ければ2015年からIFRSに基づいた財務諸表を作成しなければならない。IFRSと現行の日本の会計基準に基づいた財務諸表の並行開示期間を1年間と設定しており、最短の2015年3月期からIFRSに移行する場合、2014年3月期は移行期間となる。

 つまり2013年4月の段階でIFRSに基づいた財務諸表を用意する必要がある。金融庁がIFRSのアダプションの方向性を示したのが2009年6月なので、準備期間は実質4年弱となる。

 欧州企業の準備期間は日本よりも短かった。「欧州は90年代後半からアダプションの可能性を示していた」など色々な説があるが、実質2~3年で対応しなければならなかった。

 短期間でIFRSに対応する必要があった欧州企業は「制度対応」が中心となったようだ。とにかくIFRSに基づいた財務諸表を作成できればよい、とする対応方法である。各国の会計基準に基づいて作成した財務諸表を、経理・財務部門の担当者が連結会計システムや表計算ソフトを使ってIFRSに基づく財務諸表に組み替える方法が主流だ。

 単なる制度対応では、経理・財務以外の業務部門の担当者や連結グループの各社の業務はIFRSになっても変わらない。基幹系システムの再構築といった大規模なシステム投資が発生しないのがメリットだ。

 一方で、経理・財務部門の負担が非常に重くなる。決算のたびに手作業をはさんで財務諸表を作成するので、間違いが発生しやすく、内部統制上の問題も大きい。

 もちろん欧州企業の事例が全く参考にならないわけではない。会計基準の解釈や財務諸表の表示方法、注釈の書き方などは参考にできるだろう。IFRS対応プロジェクトの進め方についても、IFRS対応から5年が経った今、グローバル統一システムの構築の機運が高まっているという。こちらも実例が出てくれば日本企業にも役立ちそうだ。