2012年度に売上高4兆円、営業利益2000億円、当期利益1000億円---。

 これは2010年2月25日、次期社長人事と同時にNECが発表した中期経営計画「V2012」の数値目標である。2009年度の売上予想3兆6600億円から半導体事業の売り上げを差し引くと3兆2000億円程度。年率8%もの成長を続けなければ達成できない計算になる。

 NECグループの売上高は2000年の5兆4000億円をピークとして、毎年のように縮小が続いている。そんななか、なぜこれほど野心的な売り上げ目標を、社長人事と同時に発表したのだろうか。

野心的過ぎる目標の出所

 2008年度に営業赤字に転落したNECは、人員削減や給与カットなどの徹底的な固定費削減と、経営の3本柱の1つである半導体事業(NECエレクトロニクス)の切り離しによって再生を図っている。

 厳しい経営状況を予想していたのか、矢野薫社長は2008年4月、NECの10年後の姿を示す「NECグループビジョン2017」を策定した。売上高5兆円の壁を突破するため、短期志向に走らず、長期的な視点で高い目標を打ち立てるという狙いだった。

 だが、このビジョンの実現に向けた中期経営計画の作成に手間取った。矢野社長は2006年、金杉明信元社長の病気による退任で急きょ社長に就いたが、2008年初頭には中期経営計画をまとめるとしていた。だが、2008年度、2009年度とも単年度計画を策定しただけで終わった。

 そこで矢野社長が中期経営計画の作成を任せたのが、2010年4月1日付で社長に昇格する遠藤信博取締役執行役員常務である。矢野社長と同様、通信装置を長年担当してきた遠藤常務は、2009年度の早い時期から人事・経営企画担当として中期経営計画の策定作業にあたってきた。その成果がV2012である。

 V2012の核になっている「グローバル化」「通信と情報処理の融合」は、長年NECが取り組んできたテーマだ。情報処理(コンピュータ)関連の事業部長を通信装置部門の事業部長にするといった人事のほか、事業部門別に配置していた営業チームを一つの組織に集約するなど、様々な手を打ってきた。

 だが、半導体と携帯電話端末の収益悪化などが大きく響き、業績回復の見通しは立たなかった。そこで連結対象から半導体事業を切り離すことを決断した。矢野社長は「ストライクゾーンに集中できる」と喜ぶが、半導体事業を除外した2009年度の売上高は3兆2000億円程度にとどまる。

 矢野社長としては、2010年度に売上高が3兆円を割り込む事態は何としても避けたいだろう。そこで、グローバル事業に明るい遠藤常務に白羽の矢をたてた。遠藤次期社長は事業部長時代、「パソリンク」というシステム製品を世界シェアナンバー1にした実績をもつ。

 V2012を見ると、NECの計画はさらに大胆だ。「2017年度イメージ」として当期利益2000億円、ROE約15%、海外売上比率約50%とある。仮に、2017年度の営業利益率を2012年度と同じ5%とすれば、2017年の売上高が8兆円ということである。2000年度以降、営業利益1000億円前後で推移し続けきたNECに、この挑戦的な数字が達成できるのだろうか。

 NECの常として、1兆円を目指すというクラウドコンピューティングをはじめ「この事業で何千億円」「あの事業で何千億円」といった数値目標は公表する。だが収益確保の具体策はみえてこない。過去、決算説明会でこの点を追及されても、NECは明確な根拠を示さず「達成可能」とだけ答えてきた。そして結局、目標未達に終わることもあった。心配である。