「そーうだったらいーいのにな♪ そーうだったらいーいのにな♪」

 昨日から頭の中でこんな歌が鳴っている。今書いているこの記事のせいだ。ITpro読者には子育て世代も多いだろうから、この歌のメロディがぱっと浮かんだ人もいるかもしれない。「そうだったらいいのにな」(井出隆夫作詞、福田和禾子作曲)という童謡である。

 筆者は最近の異動でIT業界を離れた。まだ振り返るほどの時間は経っていないが、IT業界では新しい技術やビジネス、アプリケーションなどのアイデアに触れることが多かった。「近い将来、こんなこともできるかもしれないんですよ」「それはすごい。じゃあもしかしてこんなことも?」「ああ、それもできるかもしれませんね」というような会話で盛り上がった。

 5年後、10年後という単位の話だから、実現するかどうか分からない夢のような話である。記事にはほとんど書けないのだが、やはりこの手の話は楽しいので、本題もそこそこに、語っていたりする。そしてそんな取材の後には(ときに取材の最中にも)、この歌が頭の中でぐるぐるしていた。いつからそうなったのかはよく分からない。もしかしたら取材先でこの歌の話題が出たかもしれない。

 そんな取材で一番よく覚えているのは、筆者が90年代の半ばによく話を聞きにお邪魔していたあるユーザー企業の情報システム部長である。「パソコン1人1台」が当たり前ではなく、企業にパソコンが増殖し始めた時期で、パソコンの管理やユーザー・サポートのあり方を日々模索していた。

 その彼がいつも「理想のパソコン像」を語っていた。使う人の手元にあるのはディスプレイとキーボード、マウスなどの入出力機器だけ。ディスクや電源、CPUなどはすべて1カ所にまとめる。それをネットワーク経由で使う。

 ネットワーク回線が細かった当時としてはまさに夢だった。彼はPCメーカーの技術者に何度も「こんなの作れないの?」と打診したが断られていた。メモ用紙に彼が描いたイメージは突拍子もなく見えたが、今のブレードPCにそっくりだった。

 もう一つある。これも同じころの話だ。コールセンター向けシステムを専門とするコンサルタントの夢は、分散コールセンターだった。これができればオペレータは必ずしもコールセンター内にいる必要はなく、自宅で仕事ができる。

 だがこれもまた、当時のネットワーク回線やアプリケーションの機能を考えると、夢の領域だった。だが彼は何回も青写真を描いては見直して、何が足りないのかを考えていた。それも今や在宅コールセンターとして実現しつつある。