少し前に、大手企業の情報システム部門の人から「会社でパソコンを買わないで、従業員が所有するパソコンを業務に使えるようにできないかを検討している」という話を聞いた。企業の情報システムのクライアントに個人のパソコンを使う。その発想に驚いたが、よく考えてみると、これは米国では数年前から議論になっている話だ。でも、日本企業もそんなことを言い出した。やはり驚きだ。

 この発想の元になる問題意識は、もちろんコスト削減である。今や企業では1人1台どころか、モバイル用途も加わり、1人の従業員が複数台のパソコンを使うことも珍しくない。当然、企業にとってはパソコンの導入コストの引き下げが大きな課題となっている。これまでは、パソコンの低価格化で何とかなっていたが、それもそろそろ限界。コストにシビアな企業が次の手はないかと考えた先が、この発想というわけだ。

 個人所有のパソコンを情報システムのクライアントに使うというのは、仮想化/シンクライアントなどの技術を使えば今でも可能だ。実際、在宅勤務では個人所有のパソコンから情報システムにアクセスすることが普通に行われている。だから、オフィス内で使うクライアントに、従業員が持ち込んだノートパソコンやネットブックなどを使うのも、当然あり、ということになる。

 問題は、会社の仕事に個人のパソコンを使うというムシの良い話を、従業員が受け入れるかだが・・・。うーん、案外簡単に受け入れてしまうのではないかと思う。実際、自分の愛機を仕事で使っている人は結構いるし、スマートフォンに至っては、かなりの人が自分で買った端末を仕事でも使っているはずだ。プライベートだけでなく、仕事でも自分のお気に入りのパソコンやデジタル機器を使いたい、そんな人は確実に増えている。

 まして今は、コンシューマ向けにiPadやAndroid端末などの魅力的な端末が相次いで登場しており、その多くが仕事にも十分使える。だから、「好きな端末を業務に使ってよい」と言えば、多くの人が喜んで使うだろうし、購入補助を出すことにすれば完璧だ。服装や鞄と同じように、パソコンなどの情報機器も個人所有のものを仕事で使う時代が、間もなく日本でも始まるかもしれない。

 企業はこれでITコストを大幅に減らせる。そう言えば、クラウドコンピューティングの時代だから、サーバーサイドもコンピュータを自社保有しなくても済むようになる。クラウド活用でITコストの削減がどれほど可能かについては議論の余地があるが、これから企業は“持たざるIT”の方向に向かうのは、ほぼ間違いない。

 さて、そんな状況の中でITベンダーはどうするのか。コンピュータメーカーについて言えば、クラウド事業者や大規模データセンター向けと、コンシューマ向けのビジネス比率がどんどん高まっていくはずだ。当然、価格面でシビアになるし、強力なマーケティング能力が必要不可欠になってくる。いずれにしろ日本のコンピュータメーカーにとっては、厳しい未来である。