SCM(サプライチェーン・マネジメント)改革の重要性が叫ばれて久しい。だが、各社の仕組みは本当に有効だったのだろうか。2008年9月に起きたリーマンショックで、SCMは改めてその優劣を問われた。

 リーマンショックを経て迎えた2009年3月期決算では、日本の製造業の業績は軒並み減収減益に陥り、トヨタ自動車さえもが最終赤字に陥った。しかし残すところあと1カ月となった2010年3月期では多くのグローバル企業が、中国などの新興国市場に助けられて業績回復し、前期を大きく上回る決算になると期待されている。

 そこで注目したいのは、各社の在庫の量や金額、回転期間の変化である。直近の業績の回復度合いと在庫指標は明らかに相関している。在庫指標の改善が進んでいる企業では、リーマンショック後もSCMの仕組みが順調に機能した、もしくは立て直しが早かったといえるはずだ。

 そこで日経情報ストラテジーは2009年11月から2010年2月にかけて、大手メーカーを10社以上取材し、リーマンショック後のSCMを再点検した。今回の特集で紹介した事例はソニー、村田製作所、トヨタ自動車、リコー、コニカミノルタ、ダイキン工業、キヤノン、セイコーエプソン、ブラザー工業、クボタ、ブリヂストン、カシオ計算機、東芝、イオン(登場順)である。

 各社のSCMを改めて取材し、浮かび上がったキーワードは、在庫の“仕分け”だった。民主党政権が進めている予算削減のための事業仕分けと同様、在庫もリーマンショック後の1年半で、必要な物と必要でない物への仕分けが進んだ。経営者やSCM担当者が“仕分け人”になって、在庫をうまく仕分けできた企業ほど、2010年3月期の業績見通しの回復度が大きいのである。

在庫仕分けはメーカーに必須の2Sそのもの

 「在庫仕分け」は、日経情報ストラテジーの造語だ。今回の特集では、この言葉に2つの意味を込めた。

 1つめは「必要な在庫(売れる在庫=売れ筋)」と「不必要な在庫(売れない在庫=死に筋)」に在庫全体を分けることだ。そのためには在庫を見える化することが前提になる。特に重要なのは、メーカー内の在庫だけでなく、流通経路や店頭の在庫まで見える化できているかどうかだ。

 2つめは、必要な在庫であっても、適量を超えてしまった「余分な在庫」を減らすことである。不況期では、販売実績に対して明らかに多すぎる在庫も経営の足かせになる。

 不必要な在庫と余分な在庫の総称が、一般にいわれる「無駄な在庫」というわけだ。

 このように、在庫仕分けの意味は簡単である。無駄な物を明らかにしてすぐに処分するという発想は、そもそも製造業でおなじみの2S(整理・整頓)そのものである。ところが頭では分かっていても、実際には現場は在庫をなかなか減らせない。欠品を恐れ、手元に在庫を置いておきたくなるのだ。これは人の習性といってよい。

 現場がモタモタしているうちに、管理指標が異常になったのを見た上司から、「在庫を減らせ」と指令が降りてくる。すると今度は「売れ筋」の在庫を削減してしまうケースが相次いだという。売れ行きの悪い死に筋の在庫を減らすよりも、一定の需要がある売れ筋の在庫を減らすほうが容易だからだ。

 在庫を減らしさえすればいいとばかりに、売れ筋を減らしてでも全体の帳尻を合わせる――。そんな間違いを繰り返してはいけないという思いも、在庫仕分けという言葉に込めた。在庫削減の前には正しい在庫仕分けが必要だ。どの在庫を減らすべきかを全社に徹底させておかなければならない。