子供が6歳になった。図書館から借りた、ふりがなの付いた図鑑を片っ端から読んでいく。筆者は隣で“古さ”が気になった記述をネットで検索しながら、「さいしんのけんきゅうではね…」と注釈を入れる。正直しんどい。電子書籍が普及すれば、こんな苦労はしなくても済むようになるだろうか。端末はどれでもよい。最新のコンテンツに常時入れ替わる電子書籍がほしい。

 「何でも検索しなくては気が済まない」という筆者の性格が問題だとは思う。でも例えば、冥王星が「惑星」に名を連ねているのを見過ごせない。図書館の書籍だから比較的古いのだ、と最新の書籍を購入しようとしても、出版や改定のタイミングによっては最新の情報を反映した書籍が書店に並ぶまで、月単位、年単位のタイムラグが発生し得る。

 これが電子書籍であれば、情報の鮮度に注意を払う機会が減るのではと期待している。なにしろコンテンツの更新にかかる時間が紙の書籍と比べて段違いに短い。版元がデータを修正し、ユーザーが通信機能を使ってアップグレードするだけだ。紙の書籍で改訂版を出すには、著者から原稿を頂き、編集し、印刷したうえで取次を経て書店に並ぶ、という工程が必要になる。

ソフトウエアと電子書籍の間にある溝

 気になるのは情報更新の対価である。情報が新しくなるコンテンツは、ソフトウエアの一種とみることもできる。バグの修正は無料、機能アップも少しならタダ、明確に機能がブラッシュアップされていれば有料。ただし、既存ユーザーにはアップグレード価格を用意する。これが ソフトウエアの常識だろう。電子書籍にも、こういう「アップグレード価格」のようなものを用意してしかるべきと筆者は思う。

 しかし、ソフトウエアの常識が書籍にも通じるとは限らない。紙の書籍なら、最新の内容を盛り込んだ改訂版を、同じ価格で新たに出版するのが常だ。改訂版だからといって、価格が安くはなることはない。書籍の延長線上にある従来型の電子書籍も同じである。

 ここで電子書籍を巡る最近の動きに目を転じると、端末の充実、書籍の電子化の2軸で事が進んでいる。端末は大画面で見やすく、通信機能でコンテンツをダウンロードできる方向で機能強化が進んでいる(関連記事)。書籍の電子化は、大手出版社21社が共同で日本電子書籍出版協会を設立した(関連記事)。特に出版業界は生き残りをかけ、米Amazon.comの「Kindle」シリーズや米Appleの「iPad」という間近に迫った露出機会を捉えようとしているようだ。

 電子書籍の収益構造は、まず紙の書籍の出版で元を取り、電子化で露出機会を増やす、というのが基本的なパターンである。この収益構造を前提にすれば、紙の書籍で改訂版を編集しつつ、その改訂個所をいち早く電子書籍に反映することは可能だし、それを「アップグレード価格」で提供するのも無理なく実現できるのではないか。

 もちろん、現実にはビジネスモデルとしてニッチ過ぎるかもしれない。自分を含めて、コンテンツのアップグレードという「少しだけ便利」な機能に読者がどれだけお金を払うのか、正直なところよく分からない。

 コラム冒頭で「検索しながら本を読む」という私事を紹介したが、だいたいは百科事典サイトの「Wikipedia」が検索結果の上位にくる。自然科学系の項目は1次情報へのリンクが多いので、ざっと見てコンテンツの信頼性を判断する。「可能な限り最新情報を載せた図鑑が欲しい」というニーズは、Wikipediaで既にある程度は満たされているのかもしれない。

 それでも、Wikipediaのような文章中心のコンテンツより、一目で何かが伝わる図版や写真・イラストをたくさん盛り込んだ図鑑や書籍のほうが読んでいて楽しい。少しのお金でそれらを最新情報に更新できるとしたら、筆者はもっと嬉しい。

 ITproの読者のみなさんは、調べものがあるとき、書籍とネットを使い分けていることと思う。もし、「電子書籍たるもの、こうあるべき」「このくらいの費用なら電子書籍のアップグレード版を購入したい」といった意見があれば、ぜひコメント欄に書き込んでほしい。