筆者は2009年末から2カ月ほど、都道府県と政令指定都市のサイトを集中的に閲覧していた。サイトの使い勝手を報告書にまとめるためだ。

 この調査は2003年に『全国自治体サイト・ユーザビリティ調査』として始まった。今回は『都道府県・政令市サイト ユーザビリティ調査』と名称を変え、通算5回目になる。47都道府県、18政令市サイトのユーザビリティ(使い勝手)について約60のチェックポイントを設け、トップページの使いやすさ、ナビゲーションの統一、音声ブラウザ対応、サイト利用者との接点、個人情報保護方針など、自治体サイトに不可欠なポイントを分析・評価した。

 この7年、自治体サイトを見ていてとりわけ印象深いのは、サイトが多機能化していることだ。新着情報のRSSを配信しているサイトは、前回調査した2年前と比べて倍増した。また、2004年6月のアクセシビリティに関するJIS(JISX-8341-3)発効以来、ハンディキャップがある人にも利用しやすいサイト作りに関心が高まるとともに、音声読み上げや文字拡大など独自の閲覧支援機能を導入したケースも少なくない。新しい技術を取り入れながら、より幅広い層に効率よく情報提供しようという自治体の意気込みがうかがえる。

 しかし、せっかく良い機能があっても、ちょっとした配慮が足りず、利用しにくいと感じるケースも見受けられた。

 ある自治体サイトのトップページをチェックしていた時のことだ。調査担当者の一人が、「いきなりダウンロードが始まった!」と慌てている。見れば、サイト閲覧支援プログラム(アドオン)のインストールが自動で開始され、ブラウザが警告を出しているところだった。

 プログラムの自動インストールを告げるページには、プログラムの固有名とインストール作業に関する注意事項が表示されているだけ。自治体名もロゴもなく、どんなプログラムなのかの機能説明もない。業務で日頃からサイトを見慣れている筆者らにとっても想定外の事態なのだから、用事があってたまたま自治体のサイトを訪れ、この閲覧支援機能を使ってみようと思った利用者は、かなり驚くのではないだろうか。

機能を「いきなり開始」してはいけない

 さきほどの閲覧支援機能ほどショッキングではないが、RSSも「いきなり開始」する場合がある。RSSのアイコンをクリックすると、なんの説明もなくフィード選択画面が開くサイトがあった。RSSの使い方を知っている人なら戸惑うことはないかもしれないが、そもそも自治体サイトの利用者の中には、RSSとは何なのか、よく知らない人が多い。そうした不案内な利用者には、いくら便利な機能でも決して利用されることはないだろう。

 一方、利用者に配慮して、「RSSについて」といった説明ページへのリンクを添えているサイトもある。ちょっとしたガイドページがあるかどうかの違いだが、両者のユーザビリティの差は大きい。機能の導入から利用促進まで、長いスパンでサイト作りに取り組んでいるかどうか、運営者の姿勢の違いを反映していると言えそうだ。

 オンラインによる行政手続の利用促進、またWeb上のコミュニケーションツールを使った利用者との接点拡大を目指して、自治体サイトはこれからさらに機能を充実していくだろう。2009年7月にTwitterを活用しはじめた青森県のように、新しいツールの採用に意欲的な例もある。好評なら、Twitterの利用が全国の自治体サイトに広がるきっかけになるかもしれない。

 ただ、自治体サイトには決まったターゲット層がなく、あらゆる人が利用する。サイトの機能を充実させるのと併せて、何ができるかを分かりやすく説明し、敷居を低くすることが基本だ。

 例えば、サイトの閲覧に不慣れな人が、行政手続きなど何らかの必要に迫られて訪れたとする。そんな利用者にも、新機能のメリットと操作手順を具体的に示し、迷わずにすむようにしなければならない。新機能の導入後も、アクセスログを参照して利用状況を把握し、使い勝手に改善を加えていくべきだろう。

 機能の充実と利用促進は二人三脚である。サイトに新しい機能を取り入れるなら、利用者に使い方を教え、普及・定着させる。そこまでを視野に入れておきたい。

●都道府県・政令市サイト ユーザビリティ調査の詳細