ラジオの電波状態でいえば、筆者は都会のへき地に住んでいる。鉄筋コンクリートのビル群のおかげで、自宅でも会社でもほとんどAMラジオ放送を受信することができない。それで長い間、AMラジオから遠ざかっていた。ところが、数年前からポッドキャストで多くの番組が聴けるようになり、毎晩のようにお気に入りの番組を聴きながら眠りにつくようになった。

TwitterやUstream.TVはラジオと相性がいい

 学生時代に戻ったような郷愁を覚える一方、時代の様変わりを感じる。ハガキの投稿はめっきり減り、代わってメールやブログ、最近ではTwitterやUstream.TVなどのメディアが活躍している。不思議なことに、当初これらメディアに違和感を感じるが、そのうち自然に慣れてしまう。どのメディアも実にラジオと相性がいいのだ。そしてソーシャル・メディアの原点は、ラジオにあるのではないかと思うようになってきた。

 なぜだろうか。ちょっと考えてみた。最近はやっているTwitterやUstream.TVなどは、ほぼ実況中継に近いサービスである。メールやブログのように自分の考えをある程度まとめて筋道立てて伝えるコミュニケーションには向いていない。半面、井戸端会議のように思いつきやフィーリングでおしゃべりしながら話題を組み立てていく、いわば“ゆるい”コミュニケーションに向いている。そこでは当然、親しみやすい話題や身近な話題、ローカルな話題が中心になってくる。

 しかし、そんなふうに小難しく考え込まなくても、おしゃべりしたいという点では、どれも一緒じゃないか。「なあんだ」。そう思ったのは、TBSラジオの人気番組「小島慶子キラ☆キラ」を聴いていたときのことだ。この番組、題名通り局アナの小島氏がパーソナリティを務め、日替わりでコラムニストやタレントらとコンビを組んで愉快なおしゃべりを繰り広げる。だが、話題によってはいきなり小島氏の素朴な疑問に火がついて怒とうのような持論展開が始まり、相方がなだめにまわることがたびたびある。

うれしいIPサイマルラジオ

 先日は、日経ビジネスオンラインの記事「大手民放ラジオ13社、ネット同時放送解禁へ」をきっかけに、小島氏の持論爆発が始まった。大手民放ラジオ局13社は今年3月から、ラジオ番組をインターネットでも同時に配信する新サービスの実験を始める。これら13局は、2009年12月に「IPサイマルラジオ協議会」を共同で設立し、インフラ整備や権利処理の準備を進めてきた。背景には、聴取者の減少傾向や都市部での電波状況の悪化、ラジオへの広告支出の落ち込みがある。今までラジオを聴いていなかった人にも聞きやすい形で聞いてもらい、復興を図るのが狙いだ。

 小島氏によれば、ラジオになじみのなかった人がインターネットをきっかけにラジオを聴き始めるのは、キラ☆キラでもまさに起こっていることだという。例えば「ポッドキャストで聞いてみたら面白かったのでラジオを買いましたとか、Twitterでこの番組の存在を知って二十数年ぶりにラジオを聴きましたとか」。実際、欧米ではインターネットでの同時放送をきっかけに聴取者が増えたという調査結果もあるという。

 これは、「古い道を捨てて新しい道に乗り換えるのではなくて道幅を1つ増やすということ。だから、昔ながらのラジオ聴取者が置き去りにされるということではありません」と小島氏は説明する。筆者のようにAM放送を受信できない者にとっては、全部の番組がポッドキャスティングされているわけではないから、単に受信できるようになるだけでもうれしい。ちなみに、スカパー!や地上デジタルテレビ放送などでは、光ブロードバンド回線という選択肢が既にあり、方角やアンテナ設置方法などの問題で電波を受信できないでいた多くの人々が助かっている。