「このインターネット専用端末は10.4インチ型の液晶ディスプレーを備え、内蔵バッテリー最長6~7時間の動作が可能。手に持って利用し、マウスの代わりに専用のタッチ式ペンで操作する。Webページのハイパーリンク部分をペンで触れることでリンク先のWebページに移れるほか、画面に表示したキーボードをペンで操作して、文字を入力することもできる。実際に使ってみたところ、ハイパーリンクをたどる操作は容易だったが、ペンを使った文字入力にはややストレスを感じた」。

 これはちょうど10年前、2000年の夏に、記者が米ニューヨークで取材した「PC EXPO」というイベントの記事だ。そこで注目を集めていたのは、インターネット接続専用の「パネル型パソコン」だった。スペックをざっとおさらいすると、プロセッサは米トランスメタの「Crusoe」、OSはLinuxで、Webブラウザーは「Netscape Navigator」である。

 こうして固有名詞を列挙するだけで、ある世代以上の読者の方は「懐かしい」という感想を抱くのではないだろうか。記者もその一人である(という年齢になったこと自体にも、別の意味で感慨を抱かざるを得ないのだが)。

 なぜこんな古い話を持ち出したかと言えば、10年後の2010年になって、当時発表された製品コンセプトがようやく実現しそうに感じたからだ。「タブレット」あるいは「スレート(石版)」と呼ばれる、新しい種類のパソコンである。A5サイズ程度の本体に、ほぼ同サイズの液晶画面を搭載する。キーボードはなく、画面をタッチして操作する。メディアによってはパソコンではなく、「電子書籍端末」と表現したりもする。

 話題の先頭にいるのは米アップルだ。1月27日に「iPad」を発表(関連記事)。ここ1年あまりIT業界のうわさの的だったアップル製タブレットを、ようやくお披露目した。

 これに先立つ1月初めには、米マイクロソフトが家電イベント「2010 International CES」で、Windows 7を搭載したタブレットパソコンを発表した(関連記事)。米ヒューレット・パッカードなど3社が試作品を展示。スティーブ・バルマーCEOも「パソコンの新しい可能性を切り開く」とアピールした。CESではWindows 7以外に、米デルがAndroid搭載タブレットの試作機を展示している。

 そして米グーグルもタブレットパソコンの製品化をうかがう。2月初め、Web専用OSである「Chrome OS」開発プロジェクトの公式Webサイトで、Chrome OSを搭載したタブレットパソコンのコンセプト写真を公開した(関連記事)。

 2000年のPC EXPOでパネル型パソコンを展示したのは新興企業のトランスメタだった。2010年はIT業界の巨人3社が、タブレットパソコンを舞台に顔をそろえた。

あらゆる環境が整った


 2000年と2010年の違いは、登場するプレーヤーの顔ぶれだけではない。ニーズとシーズの双方で、タブレットなどネット接続機器の普及を促す環境が、10年前と今とでは大きく様変わりした。具体的には(1)要素技術の進化と成熟、(2)機器の普及を後押しする取り組み、(3)クラウドの普及、(4)機器の特性を生かしたサービスやコンテンツの登場――の四つである。

 要素技術で大きいのは、無線通信技術の普及、半導体ディスクの大容量化と低価格化、画面に指で触れて操作するタッチ技術の普及などだ。クラウドが普及し、日常的に触れるネットサービスが増えた。スーパーの食品売り場でiPhoneを片手に、料理レシピサイト「クックパッド」をチェックするスタイルは、もはや珍しくなくなった。

 機器やソフトの開発を後押しする取り組みの一例が、米アドビシステムズの「Open Screen Project」。同社のFlash技術を、あらゆる機器向けに提供する。機器ごとに異なるアプリケーションの開発手法や実行環境、利用者の使い勝手を統一する取り組みだ。さらに、次世代のWeb技術であるHTML 5の標準化動向も見逃せない。