ここ1年ほど,利用するかしないかを迷っているサービスがある。フレッツ光回線上で加入電話と同じ電話番号を利用できる「ひかり電話」だ。

 昨春の引っ越しを機に,自宅のインターネット回線をそれまでのCATVインターネットから,NGN(次世代ネットワーク)対応のフレッツ 光ネクストに変えた。そのときに電話は,使っていた加入電話を移転するだけにとどめた。周囲から「前もって引っ越し先の電話番号を知りたい」という言われていたからだ。

 加入電話は1カ月前に工事日を予約すれば,移転先の電話番号をその時点で選べる。しかし,ひかり電話の場合は,光回線が開通するより前の段階で電話番号を取得することができない。そんな経緯で,引っ越し先には加入電話のまま移転し,その後,ひかり電話に切り替えるタイミングを逸してしまったのである。

ひかり電話の併用率は4分の3以上

 フレッツ光回線を使っていながらひかり電話を契約しないユーザーは,いまや少数派だ。2010年2月5日にNTTが発表したの第3四半期決算を見ると,フレッツ光シリーズのユーザー数は2009年末時点で約1280万回線,ひかり電話は約960万チャネルに達している。1回線で複数チャネルを契約することもできるのだが,単純に計算すると,ひかり電話を利用していないユーザーはフレッツ光全体の25%以下となる。

 その中には「電話は携帯電話だけで十分」というユーザーもいるはずである。加入電話を併用しているユーザーの割合はさらに低いだろう。

 加入電話の用途は,携帯電話が使えないときに外からの連絡を着信するくらいである。あとは携帯電話番号を記入したくないときの連絡先として使う程度だ。切り替えるだけで,月々の基本料金が安くなるひかり電話を選ぶユーザーが大多数を占めるのは,当然といえる。

 ただ,筆者がひかり電話への切り替えをためらっている理由は別にある。NTTは,ひかり電話を「加入電話と同等のサービスが利用できる」と説明している。この点がひっかかるのだ。

ひかり電話のサービスは加入電話より劣る?

 加入電話のサービスとひかり電話のサービスをよく比べてみると,その内容は決して同じではない。それにもかかわらず,NTTは両者の位置づけを明らかにしないまま,切り替えを促している。

 まず,ひかり電話にはつながらない電話番号が数多くある。例えば,相手の電話が出ないときに通話中か受話器のかけ忘れかどうかを調べてもらえる114番の話中調べ番号や,相手が通話中の場合に,終わったことを呼び出し音で知らせてくれる159番などが使えない。

 メーカーなどがユーザー向けの問い合わせ番号として公表している「0570」で始まる番号にも,一部つながらないケースが残っている。ほかにも代表的なものでは,停電時に電話局からの給電で通話ができる機能をあきらめなくてはならない。

 普段は,加入電話にそんな機能があることなど忘れている人がほとんどではないだろうか。ひかり電話でつながらない電話番号の多くは,長い電話の歴史の中で一時的に必要だったもので,いまはほとんどニーズがないのも分かっている。実際のところ,ひかり電話ユーザーが不便に感じる場面は少ないはずだ。

 一方で,加入電話は「電話番号であれば,何にでもつながる」という“絶対性”を備えていることは確かだ。ユーザーに対して「どの電話番号にはつながりません」という説明が不要だという明快さがある。

 こうした加入電話のサービスと比較すると,ひかり電話は「つなぐために開発コストがかかる電話番号には,需要がない限り対応しません」という次善のサービスと見るべきだろう。実際,小さい字で「つながらない番号があります」という注意書きが添えられている。

 加入電話とひかり電話のサービスにはこのような違いがあるにもかかわらず,NTTは光回線のユーザー数拡大という目標を掲げて,ひかり電話への移行を促している。この構図に納得できないのである。