2010年2月4日~5日に「都道府県CIOフォーラム」の春季会合が東京・飯田橋で開催された。同フォーラムは、全国47都道府県の情報化統括責任者(CIO)または情報化推進担当責任者(CIO補佐監、情報政策課長など)で構成する任意団体であり、日経BP社が事務局を務めている。2003年の設立以来、年2回のペースで全体会合を重ねてきたが、昨年11月に日経BPガバメントテクノロジー編集長に就いた筆者は、今回初めて企画・運営・進行などに携わらせていただいた。

 会合では、自治体クラウド実証事業に関する総務省の講演大分県のテーマ報告をはじめ、計3つのテーマを軸に活発なディスカッションが展開された。その内容は後日、日経BPガバメントテクノロジー本誌や「ITpro 電子行政」で報告するとして、ここでは印象に残ったことをいくつかお伝えしたい。

 会場は、北海道から沖縄県までの委員が、「ロ」の字型に組んだテーブル席にずらりと並ぶレイアウト。今回、5府県の委員は都合がつかずに欠席だったが、それでも42都道府県の委員が顔をそろえた様子は壮観だった。

 意外だったのは、参加者の発言が非常に活発だったこと。実は前任者から「発言について事前に根回しをしておかないとスムーズな進行は難しい」と助言されていたが、杞憂(きゆう)だった。特に、自治体クラウド実証事業、庁内サーバー統合(プライベートクラウド)、パブリッククラウド活用をテーマにしたディスカッションでは、先行して取り組んでいる団体への質疑を中心に活発なやり取りが交わされた。クラウド活用に対する関心の高さがリアルに伝わってきた。

 総務省が音頭を取る自治体クラウド実証事業についての議論では、「なるほど」と思ったことがあった。事業に参加している6道府県(北海道、京都府、徳島県、佐賀県、大分県、宮崎県)のほかにも多くの団体が、「稼働後の事業継続性」に強い関心を寄せている点である。実証事業ではデータセンターの構築や業務アプリケーションの開発などに1団体で最大4億5000万円の費用が補助されるが、事業期間は2009年度末まで。2010年4月以降の費用補助は、現時点では白紙である。

 2010年度から導入される「子ども手当」のように、自治体システムは法制度の改訂に合わせてアプリケーションの更新やシステムの改修を迫られる可能性がある。このため、自治体クラウドには、構築した後の事業継続に必要なビジネスモデルの設計と確実な運用体制の整備が不可欠だ。

 総務省は、自治体クラウドの利用により各自治体のシステム導入・運用経費が30~40%圧縮できると見込んでいる。ただし、利用自治体間で費用をどのように分担するかや、制度改訂に備えたシステム改修の原資をどのように確保するかなどについて、指針を示しているわけではない。クラウドの利点である“割り勘”効果を十分に発揮させるためには、より多くの市町村を巻き込む必要もある。都道府県が中心となるであろう自治体クラウドの運営母体は、一般企業と同様に組織運営と事業運営の双方の手腕を問われることになる。

 自治体クラウドを生かすには、参加市町村間での業務プロセス/アプリケーションの標準化も重要なカギを握る。意外だったのは、標準化が難しい業務として「税務」が挙がったこと。かっちりした税制の枠組みがあり、市町村ごとに業務プロセスに差が出るとは考えにくいのだが、実態は違うらしい。専門知識が必要な税を扱う事務は、特定の職員が長期にわたって担当するケースが多く、結果としてプロセスが属人化。標準化には根強い抵抗があるという。税務部門には「税収」を確保する役割があるため、“プロフィットセンター”として声が大きいとの指摘も聞いた。

 このほか春季会合では、「自治体経営の“見える化”と住民参加(オープンガバメント)」「ITの“事業仕分け”のあり方」についても議論した。議論を通して、税収が目減りする中で行政サービスの向上と効率化という命題を突き付けられている都道府県のIT戦略責任者の胸の内は、当初思っていたほど一般企業のIT担当者と差があるわけではないことを実感できたのも収穫だった。

 ITpro読者の大半は一般企業に勤めているだろうが、だれもが都道府県民であり市区町村民である。ITを活用した行政サービスの向上や効率化のアイデア・ご意見があれば、ぜひこの記事へのコメントとして、または編集部メールアドレス(egovedit@nikkeibp.co.jp)あてにお寄せいただきたい。メーリングリストを通じて都道府県CIOフォーラムの会員に届けていこうと思う。