「ダダ漏れ(だだ漏れ)」という言葉の用法がネット上で変化している。これまでは多くの場合、個人情報が大量に外部に流出してしまったような状況を指すのに使われてきた。それが最近は、「イベントや記者会見などを動画でリアルタイム中継する」ことを指すようになった。

 「ダダ漏れ」が一般に知られるようになったきっかけは、民主党政府による事業仕分けがインターネット経由でライブ中継されたことである。この事業仕分けを中継した「ケツダンポトフ」のそらのさんは、以前から「iPhone 3GS発売記念前夜祭」などのイベントのほか、インタビューや記者会見などを精力的にリアルタイムで中継している。「ダダ漏れ」という言葉を広く知らしめた貢献者といえるだろう。

ネットのフリーサービスでここまでできる

 「ダダ漏れ」を行うには、何も特別な機材を用意する必要はない。無料の動画共有/配信サービス「USTREAM」を使うことで、手軽に実行できる。

 パソコンを使うなら、WebカメラとAdobe Flashが動くWebブラウザ、あとは通信回線があればよい。USTREAMのサイト上でユーザー登録を済ませて簡単なセッティングをした後に、画面上に現れる「START BROADCAST」というボタンを押す。これだけで、あっという間にインターネット上で動画配信が始まる。

 使える端末はパソコンだけではない。2009年12月にはiPhone用のUSTREAMアプリケーションがApp Storeで公開された。このアプリケーションをインストールしたiPhoneが無線LANや3Gの携帯電話回線からインターネットに接続できる環境にあれば、どこからでも動画をストリーミング配信できるようになった。

 USTREAMではリアルタイムで配信したコンテンツをそのままネット上に保存することも可能だ。リアルタイムで見逃した視聴者が、後からそのイベントをオンデマンドでチェックできる。

 このように、ドラえもんの「どこでもドア」ならぬ「どこでも窓」を誰でも開けられるようになったのである。

Twitterとの連携で強力なメディアに

 同じようなリアルタイム動画配信はこれまでも可能だった。こうした従来のものに対して「ダダ漏れ」が急速に注目を集めたのには一つ理由があるといわれている。それはTwitterの存在だ。ネット上のクチコミによって、リアルタイム動画配信は息を吹き返したといえる。

 これまでのリアルタイムの動画配信では、多くのユーザーに見てもらうために、事前の告知が欠かせなかった。いきなりライブ中継を始めても、それを誰も知らなければ視聴者はゼロ。誰の元にも情報は届かない。

 事前に告知しても、なかなかうまくいかない。ユーザーが告知を見て知っていても、ライブ配信の時間に「うっかり忘れていた」というケースも多く、なかなか広くアクセスしてもらうことができなかった。

 それがTwitterの普及で、今まさにリアルタイムで動画配信されているコンテンツを多くの人々にアナウンスできるようになった。USTREAMの該当するURLに、その内容と一言コメントを付け足してつぶやけばよい。あとは、それを見た別のユーザーが「RT」(リツイート。ある人のつぶやきをより多くの人に知らせようと再投稿すること)を繰り返すことで、その告知はTwitter上で広まっていく。

 検索サイトがサイトの更新情報を反映するのには、数時間から数日の期間がかかる。それに対してTwitterではつぶやきが数分から数十分で検索対象となる。

 Twitterには、特定のキーワードをユーザー側で常時チェックするという機能もある。特定のキーワードを入れてつぶやけば、そのキーワードに興味を持ち、常時チェックしているユーザーにダイレクトに告知できるのだ。

「ライブ感」と「編集されていない」が魅力の理由

 「ダダ漏れ」は急速に強力なメディアとして成長しつつある。冒頭で紹介した「iPhone 3GS発売記念前夜祭」の例では、最大で1600ものユーザーが同時に接続して中継を視聴したという。iPhoneに興味を持つ1600人規模のユーザーを集めるイベントを開催したのと同じ効果を期待できる。

 なぜ「ダダ漏れ」が視聴者を惹きつけるのか。筆者は理由が二つあると考えている。一つは、ライブ感だ。

 動画コンテンツはそれだけで魅力がある。そこにリアルタイムに流れているというライブ感が加わるわけだ。今まさに行われているイベントに、距離を意識せずに参加できる。

 ユーザーはそのイベントに興味があるから視聴する。視聴しながらTwitterを使ってつぶやけば、同じ興味を持つ他のユーザーにそれが伝わる。同じイベントに参加しているという連帯感に加えて、イベントに対する意見の交換までできてしまう。

 ここでも、USTREAMとTwitterの連携が威力を発揮する。こうした効果は、リアルなイベントでもなかなか実現できないものだ。

 「ダダ漏れ」が惹きつけるもう一つの理由は、編集されていないという点だ。既存メディアに流れる情報はどれも、メディア側で加工されたもの。読者/ユーザーが、いわゆる1次ソースの生の情報に触れる機会は少なかった。

 そのためか、読者/ユーザーの一部に「メディアは信用できない」と感じる人々がいる。「情報の1次ソースと読者/ユーザーの間に介在するメディアが情報操作をしているかもしれない」と疑っているのである。

 その点「ダダ漏れ」は、現場と直結した“編集されていない”動画がそのまま読者/ユーザーに届く。編集のしようがない。生の情報に触れるので、そこで自らの正しい判断を下せるようになる---というわけだ。