異なるWebサービスをつなぎ,新たなWebサービスを作り上げるマッシュアップ(mashup)。筆者が新聞や雑誌,インターネットでマッシュアップというキーワードを見かけるようになったのは2006年ころだった。このころ日経コンピュータに所属し,企業の情報システムを取材していた記者は,Google Maps APIで加熱したマッシュアップ・ブームについて懐疑的な見方をしていた。

 当時公開されていたWebサービスは,企業の情報システムには関係がないものが多かった。開発者がWebサービスを利用できるようにするためのWeb API(Application Programming Interface)を公開している企業も少なかった。Web APIの開発には当然,それなりのコストが発生する。企業分野に限らず,マッシュアップはそれほど普及しないのではないか。こう高をくくっていたのである。

Web APIは当たり前の存在

 それから4年の月日が流れた今,筆者の予想は大きくはずれた。Googleだけでなく,Yahoo! JAPAN,楽天,など名だたるWeb企業が自社のWeb APIを公開している。Webサーフィンをすると,Web APIを使ったWebサイトがいかに多いかがわかる。

 HTTPを使って通信を行う手法のREST(Representational State Transfer)や,XMLによってメッセージ交換を可能にするSOAP(Simple Object Access Protocol)といった仕様が一般的に普及したことも,ブームを後押ししている。標準的な通信手段が存在することで,誰でも手軽に利用できるようになった。

 企業システムの分野も例外ではない。社内システムに他社のWebサービスを組み合わせて活用する事例も年々増えている。社内システムから得られるデータを,外部の情報やサービスと組み合わせて顧客に提供するエンタープライズ・マッシュアップを支援する製品も登場している。

 様々なWeb企業がすでに自社のAPIを公開しており,世の中はWeb APIであふれている。もはや「Web APIを公開した」だけでは新奇性はない。マッシュアップというキーワードも以前に比べて聞かなくなった。一見すると,ブームは去ったように思える。

 だが,Google Maps APIに勝るとも劣らないインパクトを持ったAPIの登場で,マッシュアップ・ブームが再燃する可能性があると記者は考えている。それがTwitter APIだ。

世界中から収集した「つぶやき」情報を生かせる

 ITproの読者にはもはや説明不要だろうが,Twitterはミニブログとも呼ばれ,自分が「いまどうしてる?」を140文字以内でつぶやくシンプルなサービスである。手軽に情報配信できる便利さがユーザーの心をつかんだといえる。記者はこれに加えて,豊富で使い勝手の良いTwitterのWeb APIである「Twitter API」が流行の手助けをしたと考えている。

 Twitter APIを使うと,Web上で行えるほとんどの作業をAPIを通じて実行できる。例えば,つぶやきの履歴を取得したり,目的のキーワードについて,つぶやいた人を検索したりできる。これを応用すれば,企業は情報配信したり,ユーザーの声をいち早く入手したりできるマーケティング・ツールとしてTwitterを利用可能になる。

 筆者は,この新しいWeb APIに大きな可能性を感じている。実際,Twitterの関連サービスが増えることで,外部への露出度を高め,興味を持ったユーザーが登録し,さらにユーザー数を増やす,という正のサイクルが回り始めている。今では,Google MapsやFlickrなどの人気のAPIにせまる勢いで利用が進んでいる。

 Google Maps APIは地図などの静的な情報を表示するだけなのに対して,Twitter APIを利用したWebサービスを構築すれば,リアルタイムで世界中のつぶやきを収集し,その情報を活用できる。リアルタイムの情報を瞬時に取得・告知できるAPIを契機に,マッシュアップが再び注目される可能性は十分あるのではないだろうか。

 日経ソフトウエア2010年3月号では,Web APIの仕組みと利用方法について学習する企画「最新Web API徹底活用術」の特集を組んだ。最新のWeb APIを網羅して,使い方を理解できるように編集したつもりだ。

 この特集を読めば,Web APIを活用すれば手軽に高機能なWebアプリケーションを作成できることがわかっていただけると思う。Web APIがそもそも何なのか? 具体的な活用方法を知りたい,といったソフトウエア・エンジニアにお勧めしたい。ぜひ,手にとってご一読いただければ幸いである。