リーマンショックの後遺症に先進各国が苦しむ中で、このところ中国の高成長ぶりが際立っている。自動車については、中国自動車メーカーの業界団体である中国汽車工業協会は2009年11月9日に1~10月累計販売台数が初めて1000万台を超えたと発表、これにより通年で米国を抜いて世界一となることが確実になった。薄型テレビについても、直近では国慶節連休期間(9月26日~10月8日)における液晶テレビの販売が絶好調であり(Tech-On!関連記事1)、中国市場のシェアは2012年にも北米を追い抜いて世界一となると予測されている(Tech-On!関連記事2)。

 『チャイナ・アズ・ナンバーワン』によると、中国の「世界一」はこうした製造業の分野だけではない。銀行の時価総額や外貨準備高も世界一の規模になっており、一方で二酸化炭素排出量という負の側面でも世界一になった。こうしたさまざまな分野で中国が突出してきたのは、先進各国が足踏みしている状況で相対的に浮上してきた面もあるが、中国政府がいち早く金融緩和や内需拡大策などの景気対策を打ち出した面も大きいようだ。本書によると、それらの対策は主に以下の5点である(pp.4~9)。

  • (1)リーマンショックが起こった2008年9月以降、貸し出し金利を5回にわたって引き下げるなどの金融緩和を素早く行った(インフレ率が低下傾向に転じたうえ、先進国に見られる政策金利0%という壁がないため利下げの余地があった)。
  • (2)2008年7月に「元高」傾向が一段落して人民元が安定化すると共に、2008年8月から2009年6月ま7回にわたって輸出にかかわる付加価値税の還付率が引き下げられ、輸出の下支えとなった。
  • (3)2008年11月に、2010年までの2年間でインフラ投資を中心に4兆元に上る内需拡大策が発表された。
  • (4)2009年1月から2月にかけて、1.鉄鋼、2.自動車、3.繊維、4.設備製造、5.石油化学、6.軽工業、7.電子情報、8.船舶、9.非鉄金属、10.物流から成る十大産業を対象とし、中国の産業技術の高度化と構造変化を促す振興策が相次いで発表された。
  • (5)2009年3月に開催された全人代で、新しい消費分野(自動車、観光、スポーツなど)と農村部における消費の拡大を図ることが重点課題として掲げられ、「家電下郷」(家電購入の際に13%の補助金を支給する制度)などの対策が実施された。

 これらは、産業構造の視点から見ると、短期的な対策と長期的な施策をうまく組み合わせながら、労働集約型から資本集約型へと転換させようとするものだ。中国政府はどのような「意図」を持って産業転換を進めようとしているのだろうか。

 ここでは、この点ついて、FPD(フラットパネルディスプレイ)産業をケースとしてもう少し掘り下げて考えてみよう。そのうえで参考になったのが、FPD International 2009におけるドイツ証券アナリスト中根康夫氏の講演である(タイトルは「フラットパネルディスプレイ業界の展望、主戦場は中国へ?」)。