「普段はほとんど無視されているのに、障害が発生すると悪者扱い。なんとかなりませんかね」――。システムの安定稼働に携わるIT技術者からよく聞く言葉である。「システムの価値が得られるのは運用段階に入ってから」と、利用企業の価値観が変わっても、その状況は変わらない。安定稼働を支えるテクノロジやIT技術者をきちんと評価しなければ、大きなしっぺ返しを受けそうだ。

 民主党政権が「社会に溶け込むICT」を目指し始めたように、ITの“ステルス化”が進行している。記者が言うステルス化とは、「社会システムを支えるためにITの活用が進み、利用者には社会の仕組みが進歩したとは実感されるものの、そこでITが使われていることは直接的には伝わらない」ということだ。携帯電話の各種サービスやクラウドコンピューティングなどが“ステルス化”の代表例である。ITのサービス化とも言える。

 かつてのメインフレーム全盛期も、ITはステルスだった。空調の効いたマシンルームに隠され、専門技術者が運用した。現場の利用者は、メインフレームが提供するサービスを利用するだけだ。結果、冒頭で挙げたような評価が、IT技術者には下されていたわけだ。

 それが1980年代後半から、UNIXやWindowsの台頭によりITは一般オフィスに進出し、現場でもプログラミングや運用ができるようになる。このころからITは“コモディティ(日用品)”と呼ばれる。特にPCは、いつも側にあり使いこなせるのが当たり前のようになった。

最近のブームはデジャブ感が強い

 最近では、生まれたときからIT環境に慣れ親しんでいる世代が「デジタルネイティブ」と呼ばれ、ITの新たな利用方法が生まれると期待されている。彼らをターゲットにしたSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)や携帯電話向けサービスがもてはやされる理由の一つがここにある。

 しかし、メインフレーム時代を知っている世代にすれば、最近の流行はデジャブ感が強い。ブログは、記者が常に三日坊主で終わっていた日記だし、携帯ゲームは、パックマンやテニスなど初期のテレビゲームを思い起こす。CMや映画に登場するキャラクターも、鉄腕アトムや鉄人28号など、かつてのヒーローが少しリアルになって再登場しただけだから、それほどワクワクしない。むしろ、子供たちに「なんで知っているの?」と驚かれるほどだ。

 大流行しているTwitterにしても、かつてはゲーム喫茶などに仲間が集まって遊んでいたのだから、自然と同じ時間と空間を共有できた。電子メールという通信手段が、「蓄積交換型で、時間を気にせず対話できる」として評価されたことを思い出せば、リアルタイム性が強いTwitterは逆に、利用範囲が狭いとも感じてしまう。