グループワークを進める上で、一番大切なことは何だと思いますか。私は「目的を共有すること」ではないかと思います。

 もし、何をやりたいのかという目的をみんなで共有できていなければどうなるでしょう。どんなにやる気やスキル、協調性があるメンバーが集まったとしても、どこに向かって活動してよいか分からず、仕事を開始することすらできません。

 そもそも人が集まるのは、何か目的があるからです。集まって何かを達成したいから、みんなが集まってくるのです。しかし、毎日同じメンバーで集まって活動をしてると、意外とその一番基本的なことを忘れがちです。

目的の共有を中途半端にしてはいけない

 以前、サイボウズでこんなことがありました。上場を果たし、次の成長に向かって取り組もうとしていたころのことです。あるメンバーが私のところにやってきて、怒りをぶつけてきました。「青野さん、僕がサイボウズに入社したのは、次々と新しいソフトウエアを開発し、世の中にリリースしたかったからです。現行のグループウエア製品のバージョンアップをやりたかったわけではないんです。今のサイボウズはつまらないと思います」。

 私は困りました。確かに彼は新しいことを発想するのが好きなタイプです。彼の望みは何らかの形で叶えてあげたい。しかし、現行のグループウエア製品のバージョンアップは、お客様に安心して使い続けていただくために、とても大切な仕事です。私は彼にそのことを話し、ひとまず納得してもらいました。

 私は後で、どうしてこのような事態を招いてしまったのだろうかと考えました。そして、もし私が「サイボウズは何を目指すのか」という目的を、もっとはっきりと伝えていたならば、このようなことは起きなかったのではないかと反省しました。

 サイボウズの目的とは、「我々の作ったグループウエア製品を世界中に広げる」というシンプルなものです。この方向性を組織の隅々まで浸透させることができていたら、グループウエア以外の製品を作りたいと言う人は出てこなかったはずです。

 例えるならば、「我々は野球で甲子園を目指す」という目的が明確な部活動に、サッカーをやりたい人は入部してこないはずです。その「目的の共有」を中途半端にしているから、居心地の悪い人が出てきてしまうのだと考えました。

 そこで私は、意識的に目的を伝えていくことにしました。色々な形で繰り返し繰り返し、「我々の目的は何か」という情報を発信し続けました。

 それから1年ほど経ったある日、別の人からこんな提案がありました。「青野さん、グループウエアを世界に広げたいのなら、今の開発体制ではいけない。今の開発メンバーは、ほぼ全員が日本人だ。要件も仕様も日本人向けを中心に考えてしまう。違う国の人と働くのはたいへんかも知れないが、それにチャレンジしなければ世界を目指すことはできない。だから、これから世界各国の調査をさせてほしい」。

目的の共有はメンバーの自発性を育てる

 私は驚きました。確かに彼の提案はもっともです。しかし、異国の人を交えて開発を進めるのは、負荷が高い仕事です。それがメンバーから自発的に提案されたことに、驚きと喜びを感じました。なぜだろうと考えたとき、我々の目的、つまり「我々が作ったグループウエア製品を世界中に広げる」ということを共有し、共感しているから起こったのだと気付きました。

 さて、みなさんの職場ではいかがでしょうか。みなさんの会社は何のために集まっているのか、そして何を目指すのか。その目的を共有し、そこに向かって行動できていますでしょうか。

 グループワークがうまくいっていないと思ったら、そもそも目的はなんだったのか、メンバーで話し合ってみることをお勧めします。そして、話し合った後に得られるものは、単に目的を確認できることだけではありません。目的に向かっていこうとするメンバーの自発性。それが一番大きな成果物になると思っています。