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日本企業のIT投資マインドの行方

2010/01/14
渡辺 享靖=ITpro

 「経営者の心理が強気なら景気は上向き、弱気なら下向く」。かなり単純化して書いたが、大学1年生の時、筆者は経済学の授業でこう習った。要するに、経済の世界では「心理」が景気を左右し得るということだ。景気動向を調べるとき、日銀短観(景気の現状と先行きを日本銀行が企業に直接行うアンケート調査)が注目される理由は、そんなところにある。

 IT投資にも、同じことがあてはまる。以前からよく知られているように、日本企業のIT投資水準は米国企業と比べて大幅に低い。日米のIT投資に関する比較調査はいろいろあるが、一例を挙げると「米国企業のIT投資水準(対売上高比率)は日本企業と比べ3〜5割高い」「製造業では2倍ほどの格差がある」といった結果が出ている。この傾向は景気の良し悪しにかかわらず見られるため、日米企業でIT投資に対する「意識」が大きく違うのは明らかである。

 衝撃的なのは、直近の調査結果だ。日経コンピュータの調査(2010年1月6日号で掲載)では、日本企業のIT投資DI(執行するIT予算を前四半期より「増やした」企業の割合から「減らした」企業の割合を引いた指標)が2010年第1四半期でおよそマイナス10ポイントという予想になっている。

 これに対し、米Forrester Researchが1月12日に発表した世界IT支出の調査結果(関連記事)は対照的だ。2010年の世界のIT支出は前年比8.1%増の予測。米国でも、失業率10%でありながら同6.6%増加するという。さらに、「米国では、IT支出の成長率はGDP(国内総生産)成長率を約2倍上回る」と予測している。

手元に資金の余裕がないとIT投資を控える

 あるITアナリストに取材した時、当初のテーマから脱線して「日米企業でなぜIT投資水準がこれほど違うのか」という話になった。経営者の意識に関して話題は多岐にわたったが、ここでは2つの点を紹介したい。

 1つは、企業の投資活動におけるIT投資の優先順位の違いだ。日本企業ではIT投資の優先順位が相対的に低く、手元に資金の余裕がないときはIT投資にまでお金が回らないという。まさに今、日本企業がIT投資を抑えている理由はそこにあるわけだが、世界の潮流からすれば「異様に低い」と言わざるを得ない。

 前述したように、「米国では、IT支出の成長率がGDP成長率を約2倍上回る」という2010年の見通しは、米国企業にとってIT投資の優先順位が非常に高いことをよく表している。

 では、なぜ米国企業はIT投資を優先するのか。最も大きな理由は、「IT投資への期待感」が日本企業と比べ非常に大きいから、とITアナリストは話す。日本企業の経営層は、ITを「コスト削減のツール」としてとらえる傾向が今でも強い。米国企業の経営層はむしろ「売り上げを増やすためのIT」のほうに期待を寄せて、せっせと投資する。この違いが日米企業のIT投資に対する期待感の差につながっているといえる。

ITより「人」への依存度が高い?

 前述のITアナリストが指摘した、日米企業における2つめの意識の違いは、人材の流動性に起因するものだ。米国企業の経営者は社外から迎え入れることが多く、しかも数年で入れ替わる。新任の経営者は、自社の経営状況を見る手段として、情報システムがはじきだす「数字」に依存するようになり、より正確で詳細な数字を求めてIT投資を増やしているという。米国でここ数年、ビジネス・インテリジェンス(BI)への関心が常にトップクラスなのは、こうした意識の表れだ。

 その点、多くの日本企業では、生え抜きの人材が経営者になる。社内の事情には通じているし、誰に聞けば詳しい報告を聞けるかを知っている。米国企業との比較で言うなら、日本企業はITより「人」に依存した経営をしているわけだ。ITアナリスト曰く、「自分の仕事を評価される時、数字ばかりで評価されるより、私としては、より人を見てもらえるほうが安心できる」。読者のみなさんも共感できると思う。これは日本的経営の良い点の1つだろう。

 裏を返せば、米国企業と比べ日本企業には属人的な面が多いことになる。ITで効率化できる業務が存在することを見逃している可能性もある。おそらく、それは経営層だけの話ではなく、生え抜きが多いという点で日本企業全体にあてはまる。もし、「ITを導入しなくても現場は回る」という意識が日本企業で強いのだとしたら、そうした日本的な仕事の進め方が「強み」になっているか、もしかしたら「弱み」ではないのか、一度点検してみてはどうだろう。

 ここで触れたことは、日米企業におけるIT投資マインドのごく限られた側面にすぎない。以前から多岐にわたって議論されているテーマであり、IT投資の「マインド」というあいまいなものを俎上に上げているため、いろいろな見方(全く反対の見方)もあってしかるべきである。

 読者のみなさんは自分の会社や顧客企業のIT投資マインドを見て、どう感じるだろうか。筆者は、世界の中で、日本だけが取り残されたような気分になっている。なにも、世界の水準を追いかけるべき、と言いたいわけではないが、あまりにIT投資に消極的な日本企業の姿勢には、将来の不安を禁じえない。

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