昨年末、クリスマス・イブのころから早々とIT企業各社のトップによる年頭所感がメールで届き始めた。そのほとんどが、クラウドをはじめとする流行語をちりばめ、事業の軸足をどこに置くかに言及したもの。だが、なかには一企業としての事業計画だけではなく、国やIT業界の明日について意見を述べたものもあった。

 折りしも1月3日にNHKで大河ドラマ「龍馬伝」の放送が始まった。すでに第1部の放送が終了した「坂の上の雲」と併せ、これら年頭所感には何か相通じる思いが込められているように感じた。それは、「何かおかしい」という疑問と「この国はきっと変わるはずだ」という希望である。このことを感じていただくために、以下では「龍馬伝」の一場面、そしてソフトバンク社長の孫正義氏とインフォテリア社長の平野洋一郎氏の年頭所感の抜粋を紹介したい。

「みんな変わらん言うけんど、わしはそうは思わん」---NHK「龍馬伝」

 まず、「龍馬伝」第1回の印象的なシーンから紹介しよう。ある日、岩崎弥太郎は、切望していた後継ぎの口を他人に奪われ、自暴自棄になって駆け出す。そして運悪く自分(下士)より身分が高い上士にぶつかる。危うく無礼討ちかと思われたが、坂本龍馬が駆けつけ何度も殴られながら許しを請い、事なきを得る。やけくその弥太郎は、「下士は死ぬまで上士に押さえつけられるがじゃ。それは未来永劫変わらん」と嘆く。

 それでも龍馬は言う。「わしは、上士に振り上げた刀を下ろさせた人を知っちゅう。母上じゃ。わしが上士の子を突き飛ばしてしもうて、手討ちにされかけたときじゃ。母上は上士を動かしたがじゃ。この土佐は、下士が上士にしいたげられちゅうこの国は、もうみんな変わらん言うけんど、わしはそうは思わん。母上が上士を動かしたんじゃけん、土佐もいつの日か変わる日が来るかもしれん」。

 弥太郎は「下士が上士に勝つ日が来る言うがか」とけげんな顔。「いや、下士も上士ものうなるがじゃ」と龍馬は瞳を輝かせる。「はあ? どうなったらそんな世の中になるがじゃ」と弥太郎はあきれる。「それが分からん。毎日考えよるけんど、分からん。わかっちゅうがは、喧嘩じゃ変わらんいうことぜよ。母上が教えてくれたがじゃ。憎しみからは何も生まれん」。龍馬は空を仰ぎながらそうつぶやいた。

「自由で公正な競争環境を切望する」---孫正義ソフトバンク社長

 話を現代に移そう。ソフトバンクの孫氏も長年、自由で公正な社会を切望してきた一人だ。孫氏は年頭所感のなかで、昨年の政権交代や将来の人口減、アジアなど新興国の台頭、産業構造の変化などについて触れ、「この誰も経験したことのない激動の時代において、私たちは何ができるのでしょうか」と問いかける。

 孫氏は「過去の成功体験が通用しなくなった今、私たちは、現在の状況を嘆くのではなく、むしろこの国をよりよい社会に変革することのできる大きなチャンス」と捉える。「最新の情報通信テクノロジーを産業・生活のあらゆる場面で徹底活用することで、“量”から“質”への転換を図り、業務・ライフスタイルに変革をもたらし、国際競争力を強化することによって再び世界をリードし、質の高い豊かな生活が実現できる」と信じているという。

 そして「その変革の源泉となるものは、各企業・各人がそれぞれ保有する知恵と知識です。この知恵と知識の自由な発露を制限することのないよう、そして人々の活力を最大限に活用することができるよう、市場環境の変化に合わせて、自由で公正な競争環境が徹底的に整備されることを切に望みます」と力説する。

「すべきではなく『したい』が未来を創る」---平野洋一郎インフォテリア社長

 インフォテリアの平野氏も、今の日本を変えたいと願う一人だ。年頭私信のなかで「株式市場を見る限り、日本以外の代表的な国は、復活傾向であるのに対して、日本は取り残されている」ことに触れ、「なぜか?」と問いかける。

 その原因として平野氏は「いま日本の社会では『たい』の量が減り過ぎて、逆に『べき」の量が増え過ぎているからではないか」と分析する。ここで「たい」とは、「~したい」「~になりたい」の「たい」、「べき」とは「~すべき」「~であるべき」の「べき」である。

 つまり「日本は規制やルールによる『べき』ばかりに時間やお金を費やし、創造を生み出す源泉たる人の欲求『たい』に時間やお金を十分に割いてない」と平野氏は指摘する。これに比べ「最近復活傾向にある米国や中国の友人達は、私の友人という限られたサンプルではありますが、国内の友人に比べると顕著に『たい』に時間を割いています。そして、それら『たい』の活動が上向きの『気』を生んでいると感じます」という。

 平野氏は「未来は、与えられるものではありません。人々の『たい』の集大成が、未来を創ります。つまり、『たい』の集大成のベクトルが上向きなほど、社会も上向きになります。ですから、日本の社会で、もっと『たい』を増やしたいのです」という。そして、持ち前のベンチャー精神を発揮し、「今年も自らの『たい』の率をどんどん増やしたい」と考えている。