筆者は新たなキーワードが登場したとき、マーケティング的な要素をぬぐい取り、できるだけ技術そのものを見ようと努めている。その視点で2009年の話題のキーワード「クラウドコンピューティング」を見てみると、「クラウド」とひとくくりで呼んでいるものに実体はないように思う。

 ここでは、米Amazon Web Services(米Amazon.com)の「Amazon EC2」、米Salesforce.comの「Force.com」、米Googleの「Google App Engine」、米Microsoftの「Azure」の順で、技術の本質や押さえどころを書いてみたい。

Amazon EC2→自動化されたホスティング・サービス

 Amazon EC2は、インターネットを介して仮想サーバーを貸し出すサービスである。CPUやメモリー、ディスクなどのスペックが決まっている仮想サーバーを選択すると、数分程度の時間で利用可能になる。

 これは、データセンター事業者が提供するホスティング・サービスと大差ない。違いは「数分で利用可能」というところだ。Webブラウザに表示されたメニューを選択していくと、人が介在することなくサービス提供される。技術的な視点では、自動化されたホスティング・サービスという見方ができる。

 このサービスの押さえどころは、基本的に仮想サーバーのサービスでしかないという点だ。サーバーをただ集めただけでは、システム基盤とはいえない。拡張性や信頼性などを確保していくには、利用者がスケールアウトの仕組みを構築したり、バックアップ/リストアの仕組みを構築したりしなければならない。

 ただ、今ではさまざまなオプション・サービスが用意されており、システム基盤を構築しやすくなっていることを付け加えておきたい。

Force.com→マルチテナントの単一システム

 Salesforce.comという会社の名前が災いしているのか、Force.comはSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)のためのサービスというイメージを持っている人がいるかもしれない。それは誤解である。Force.comはSFAやCRMに特化したものではなく、汎用的なアプリケーション開発・実行基盤である。

 提供されるのは、データベース、ユーザー・インタフェースの自動生成機能、ビジュアル開発ツール、アプリケーション間連携、アクセス制御、分析・統計、ワークフロー・エンジン、など。企業向けシステムを構築するのに必要な機能がたくさん備わっている。

 このように“上”から見ていると機能の充実した環境という姿しか見えてこないので、あえて“下”から見てみることにする。下からとは、システム基盤側からという意味だ。すると、Force.comは単一のシステムであり、その一つのシステムの上に複数ユーザーのアプリケーションが動作する構造であることが分かる。技術的な視点でとらえると、Force.comで特筆すべきなのは「マルチテナント」技術に優れているということだ。

 では、このサービスの押さえどころはどこか。それは、システム基盤部分である。データベースにはOracle Databaseが使われているといわれており、Force.comのシステム基盤は、基本的に従来型と同じアーキテクチャになっていると思われる。そのことから、Force.comの拡張性は、クラウドという言葉から一般にイメージされるものより低いことが想定される。