ITベンダーのクラウド・ビジネスとして“第二種クラウド事業者”なんかが面白い、という話を今年7月のエントリーで書いたが、本当にそんなビジネスが出現した。報道によると、セールスフォース・ドットコムが12月25日に、自社のPaaS「Force.com」を日本のITベンダーにOEM供給するパートナー・プログラムをスタートさせるとのこと。いよいよクラウド・ビジネスへの新たなパスが開けるかもしれない。

 私が提唱した第二種クラウド事業者とは、IT業界の古いビジネスで言えばVANみたいなもの。クラウドのインフラの一部を借りて、自社ブランドで様々なクラウド・サービスを提供するサービス提供者のことだ。今風に言えば、携帯電話のインフラを借りて独自の携帯電話サービスを提供しているMVNOと同じようなビジネスである。

 この話を書いた当時も、そして今も、ITベンダーにとってクラウド・ビジネスは、IT資産を誰が持つかで二つに大別される。IT資産を自ら持てば「パブリック・クラウド」ビジネスで、顧客がIT資産を持てば「プライベート・クラウド」ビジネスだ。パブリック・クラウドのビジネスは、従来の枠組みで言えば一種のアウトソーシング・ビジネスである。

 ただ、パブリック・クラウドのビジネスは難しい。必ず一定の収入が見込める特定顧客を対象にした従来のアウトソーシング・ビジネスと異なり、多数の不確実な顧客を想定して巨額の投資をしなければならない。コンピュータ・メーカーならともかく、ハードウエアを持たないITサービス会社となると、そのハードルは高い。

 それもあって多くのITベンダーが、仮想化技術を使ったITプラットフォームを、プライベート・クラウドと言い換えて売り込もうとする。これなら従来型のハードウエア/ソフトウエア売り、もしくはSIビジネスと変わらない。構築したクラウド・システムを買い取り、運用を請け負ったところで、これも従来型のアウトソーシング・ビジネスである。

 こうしたプライベート・クラウドの構築、アウトソーシングだけでビジネスが回り続ければ、ITベンダーにとっては極めてハッピーだ。だが、顧客の間にパブリック・クラウドの活用機運が高まっている中では、それは難しいだろう。パブリック・クラウドと顧客の既存システムを連携させるといったSIも“細い”ビジネスとして考えられるが、やはり、これからのITベンダーは自前のパブリック・クラウド・サービスを持たないと辛い。

 「では、どうするんだ」ということで提唱したのが、第二種クラウド事業者というわけだ。今回のForce.comもそうだが、クラウドのOEMを受け自社ブランドでサービスを提供すれば、顧客に対して導入から運用までのサービスを一貫提供できるため、ビジネスに自由度と発展性が生まれる。しかも、自社で巨額のIT投資を行う必要がない。

 もちろん、大手クラウド事業者に大本を押さえられてしまうが、これまでのSIビジネスでも、ERPやミドルウエアという形で米国ベンダーに大本を押さえられていたわけだから、ITサービス会社ならそれほど問題はないだろう・・・それにしても、今回のForce.comのOEMパートナーに日本のコンピュータ・メーカーも名を連ねたのには、少々驚いた。まあ、メーカーもSIerだから、理屈は独立系のITサービス会社と同じと言えないことはない。

 ただ、同じ大本を押さえられていると言っても、ERPなどを使ったメーカーのSIビジネスの場合、大概は漏れなく自社ハードウエアを売り込めた。自社運営のクラウド・サービスで使うハードウエアはもちろん自社製品だ。それに対して、他社からOEMを受けたクラウドを売り込む場合は、自社製ハードウエアは付いてこない。これはハードウエア・ビジネスとサービス・ビジネスの完全分離を意味する。

 まあ、メーカーから言わせれば、自社のクラウド・サービスの品ぞろえの一環で、いくらメジャーなForce.comともはいえ、OEMを受けるぐらいでは大勢に影響なしといったところだろう。でも、ちょっと面白い。Windows Azureの件も後に控えているので、ITベンダーのクラウド・ビジネスは来年、大きな動きがありそうだ。