12月3日(2009年),大阪で講演をした。対象はユーザー企業の方々,約70名だ。テーマは「新サービスとクラウドで革新する企業ネットワーク-Gmailはいらない」とした。Gmailはいらない,というのが過激で勇ましい。企業,とりわけ大企業ではメールの送信権を細かく制御し,チェックすることが求められ,誰でも何でも送れるGmailでは使えないのだ。

 特に金融機関では,金融情報システムの安全性確保のための自主基準を作っている金融情報システムセンター(FISC:The Center for Financial Industry Information Systems)がガイドラインを示しており,送信権を持つ社員を制限したり,個々のメールの送信を上司が承認するなど,作為・無作為を問わず情報漏えい対策が徹底している。日本人は明治以来,舶来ブランド品に弱い。「Gmailはいらない」という激しい表現の裏には,グーグル,マイクロソフト,シスコなどの舶来品を必要以上にありがたがるのはやめて,実質本位で製品やサービスを選択すべきだ,という思いがある。

 Gmailはクラウド型サービスの一つだが,今回は企業にとって有用なクラウドはどんなものか,ということと,中堅以上の企業にとっては「プライベート・クラウド型サービス」が効果的だ,ということを述べたい。

クラウドには2種類ある

 筆者は2年ほど前から企業のコラボレーション・ツールとしてメール/グループウエアの提案・システム構築に注力している。ユーザーへの提供形態はインハウス(システムを売り切ってユーザー資産として提供)とサービス型がある。サービス型はいわゆるSaaS(Software as a Service)であり,クラウドの一種だ。クラウドにはご存じのとおり,他にもPaaS(Platform as a Service),HaaS(Hardware as a Service),IaaS(Infrastructure as a Service),はてはDaaS(Desktop as a Service)というのもあるらしい。よくもこれだけ造語したものだ。

 メール/グループウエアという具体的なテーマでクラウドを検討してきて,単純なことに気付いた。クラウドには,空っぽのクラウドと中身の詰まったクラウドの2種類があるということだ。中身とはアプリケーション=サービスであり,中身の詰まったクラウドはSaaSだけだ。ひょっとしたらDaaSもそうかも知れないが,ここではDaaSはSaaSの一種と考える。それ以外のPaaSも,HaaSも,IaaSもみな「空っぽ」だ。

 今の日本では空っぽのクラウドばかりが増え過ぎているように見える。月額数千円で空っぽのクラウドが借りられて,ユーザーは嬉しいのだろうか? 空っぽのクラウドはユーザーから見て十数年前からあるレンタルサーバーと何が違うのだろうか? セキュリティ・チェックや課金の仕組みが用意されていたり,システム拡張が柔軟になったという進歩はあるだろうが,基本的に空っぽのクラウドはレンタルサーバーと同じだ。「いい入れ物を用意しましたから,いい中身を入れて使ってください」というのが空っぽのクラウド・ビジネスだ。しかし,ユーザーが求めているのは入れ物ではない。中身を求めているのだ。

 SaaSの代名詞としてもてはやされたSalesForce.comを各社が導入したのは入れ物がいいからではない。CRM(顧客関係管理)として優れており,スピーディかつ低コストで導入できるからだ。

 クラウドの利用を検討するユーザーは「入れ物」と「中身」を分けて考えるべきだ。そうすると,ユーザーにとっての選択肢が増え,より効果的なクラウド活用が出来る。選択肢が増えるという意味は,入れ物と中身を同一の業者から借りる必要はない,ということだ。入れ物はPaaS業者から借り,中身のアプリケーションは別の業者のものを使う,というパターンもあるだろう。筆者が大企業に勧めているパターンは,入れ物は自社のデータセンターを利用し,中身だけ業者から借りる「プライベート・クラウド型サービス」だ。