2009年11月12日、13日の2日間、宮崎県宮崎市のシェラトン・グランデ・オーシャンリゾートで開催された「Infinity Ventures Summit 2009 Fall」。国内外のITベンチャー企業が集うイベントだが、今年のセッションは「ソーシャルメディア」一色。それもそのはず、いま、ソーシャルメディアは大きな変革期を迎えているからだ。

 国内最大の会員数を誇る「mixi」を運営するミクシィは2009年8月、外部企業や個人がアプリケーションを開発してmixi上で提供できるサービス「mixiアプリ」を本格稼働。国内大手SNSとしては初めてオープン化に踏み切った。多数のディベロッパーがmixiアプリに参入し、開発者登録をしている企業・個人の数は約1万2000アカウントにも及ぶ。

 その効果たるや絶大だ。ケータイ版mixiへユーザーが移行した影響で減少傾向にあったパソコン版mixiのPV(ページビュー)は、mixiアプリ開始から2カ月連続で急増。1人当たりの月間滞在時間も約2倍に増加した。オープン化は確実にmixiの求心力を高めたと言える。

 2010年1月にはミクシィに続いて、「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA)もオープン化に踏み切る。現在はパートナー企業を80社に限定して、ソーシャルゲーム開発を進めている。2月には120社に拡大し、3月以降は全企業に開放する予定だ。DeNAはサーバーの負荷の問題、ユーザーからの問い合わせ対応など、ディベロッパーが直面しそうな様々な問題に対して、負担を軽減できる施策を準備中。ソーシャルメディア間の勝負は今、いかにディベロッパーが開発しやすい環境を整えられるか、マネタイズ(収益化)しやすい仕組みを用意できるかにかかっている。

つぶやき文化の浸透がすそ野を広げる

 一方、2009年7月ころから一気にユーザーが急増しているのが140文字以内のテキストで緩やかなコミュニケーションを図るミニブログサービス「Twitter」だ。ビデオリサーチインタラクティブのインターネット視聴率データによると、2009年9月におけるTwitterのサイトへの推定接触者数は215万人に上った。日本の運営元であるデジタルガレージによれば、2009年9月の月間PVは1億に達したという。TwitterはAPIを公開しているため、様々なデバイス向けに様々なクライアントソフトが作られている。実際の利用者数やアクセスはこれよりもっと多いだろう。

 利用者が急増している背景には、Twitterが他社ポータルサイトや検索サイト、SNSとの連携をグローバルで強化していることも一因となっている。2009年10月21日に米マイクロソフトの検索エンジン「Bing」、12月7日からは米グーグルの「Google」で、検索結果に最新のつぶやきが表示され始めた。国内では12月7日に国内大手ポータルサイト「BIGLOBE」のトップページにTwitterの枠が設けられたほか、検索結果にもつぶやきが表示されるようになった。

 急成長を続けるSNS「GREE」も11月9日に刷新したパソコン版GREEにおいてTwitter連携を開始。そのほか、Twitterのつぶやきをテーマごとにまとめられるグラムメディア・ジャパン(東京都港区)の「Tinker」が登場するなど、さまざまな種別のサイトがTwitterを中心に回り始めている印象だ。

 Twitterの類似サービスも次々に登場している。ミクシィは「mixiボイス」、サイバーエージェントは「Amebaなう」という名称で、ミニブログサービスを開始。“つぶやき”文化は確実に広がっている。

 SNSのオープン化とつぶやき文化の浸透。これによってソーシャルメディアはまさにゲーム業界と同じ世界に突入したと思ってよい。ソフト開発企業にとっていかに魅力ある環境を整えられるかは据え置き型ゲーム機を開発するメーカーにとって大きな命題。DeNAでオープン化を担当するポータル事業本部事業推進部メディアプランニングチーム チームリーダーの高橋昌弘氏は「ゲームも面白いソフトがあるからハードを買うという時代を迎えた。(ハード同様)SNSで選ぶ時代も終わりを告げる」と指摘する。

 また、任天堂のWiiが従来のゲームユーザーではない、ライトユーザーを取り込むことですそ野を広げたように、日記を書くことに対して抵抗感があるユーザーにとって、ソーシャルゲームやつぶやき文化の浸透はソーシャルメディアへの参加ハードルを大きく引き下げる。

 2010年1月には、世界最大級の約3億5000万人が利用するSNS「Facebook」が日本に本格参入する。「MySpace」に続く黒船来襲で、ソーシャルメディア間の競争はさらに激化する。新たなプレイヤーの登場、ソーシャルアプリの普及、Twitterが牽引するつぶやき文化の浸透。ヘビーユーザーを創出し、ライトユーザーまで獲得し始めるソーシャルメディアは2010年、さらなる引力で活況を呈すだろう。