iPhoneアプリで大成功している人たちがいる。例えば、ピアノアプリ「MiniPiano」「FingerPiano」を開発した和田純平さんは、会社からの帰宅後や休日にコツコツとプログラミングを進めて4000万円以上の収入を得た。勤めていた会社がMac製品から撤退することになったために同僚と2人で起業した物書堂の廣瀬則仁さんは、2人で「大辞林」「ウィズダム英和・和英辞典」などのアプリを開発し、1年半で3億円を超える額を売り上げた。

 ただし、高収入を得られることだけがiPhoneアプリの成功とは限らない。例えば、NTTドコモのiモード向け着メロサイトで成功した経験を持ち、無料アプリの「memory tree」を開発した宮田人司さんは、グローバルに同時サービスできるというiPhoneアプリの特徴を高く評価している。実際、人気アプリの開発者の下には、世界中のユーザーから激励のメールやレビューが届いている。自分が一生懸命作ったアプリを世界中の数万~数百万のユーザーが使い、喜んでくれるということは開発者にとってはたまらない経験だ。

 こうしたiPhoneアプリの成功者が生まれたきっかけは、アップルが運営する販売サイト「App Store」の登場である。誰でもiPhoneアプリを作ることができ、アップルの審査をパスすれば、App Storeで世界中の数千万のiPhone/iPod touchユーザーに自分のアプリを配布できる。アプリ価格の3割はアップルに手数料として引かれるが、残りの7割は開発者が手にできる。サーバーの運営費も流通コストもかからずに世界中にアプリを配布できるため、素晴らしいアイデアとプログラミングができれば、個人でも世界を相手にできるようになったのだ。

 ただし当たり前だが、誰もが成功できるわけではない。既にApp Storeには10万を超えるアプリがある。アプリを作ってApp Storeに並べても埋もれてしまい、さっぱり売れないこともよくある。それ以前に、iPhoneアプリを作るのに必要なObjective-Cという慣れないプログラミング言語に躊躇したり、どんなアプリを作ればよいのかで悩んでいたりする人も多い。

スペックよりもコンセプトを大事にする

 「だったら、成功した人たちに成功体験を聞いてみよう!」と考え、『iPhoneアプリ成功の法則』という本を作ることにした。8人の人気iPhoneアプリ開発者の方々が、アイデアの発想法、プログラミングのコツ、プレスリリースの送り方、App Storeでのアピール方法など、成功するための豊富な経験を披露してくれた。

 興味深かったのは、登場していただいた全員が、「分かりやすいコンセプト」を心がけていたこと。数多くのアプリの中から選んでもらうには、分かりやすくなくてはいけない。また、メディアやブロガーが取り上げる際にも、口コミで伝わるときにも、分かりやすい特徴がある方がよい。

 さらに、このコンセプトを何より大切にする姿勢にも驚かされた。ダウンロード数10万を超えるカメラアプリ「ToyCamera」開発者の深津貴之さんは、「アナログのトイカメラと同じように、撮影した写真がランダムに仕上がる」というToyCameraのコンセプトを大切にし、撮影後の写真にエフェクトをかける機能はあえて搭載していない。技術的にはできるけれど、「何でもできるけれど訳が分からないアプリ」になってしまうから、ユーザーから要望があっても応じないと言う。カレンダー/時計アプリ「LCD Clock」を開発した金田進哉さんも、「多機能にしたからといって、良いアプリになるとは限らない」と言う。深津さんも金田さんも、メールやTwitterを駆使して熱心にサポートするなどユーザーをとても大事にしているが、同時にアプリのコンセプトを大切に守っているのだ。

 こうしたiPhoneアプリ開発者の姿勢は、アップルのiPhone開発と共通するところが多い。iPhoneはスペックだけで見たら、ほかのケータイと比べて高機能なわけではない。しかし、心地よいユーザーインタフェースや、ネットとiPodとケータイの融合というコンセプトを評価してユーザーが増え続けている。やはり何かを作るときには、スペックよりもコンセプトを考え、そのコンセプトを守り抜くことが重要だと実感した。

 こうした人気アプリ開発者の方々に影響を受け、私自身も「本のコンセプトを守れているか?」と自問自答しながら、本書『iPhoneアプリ成功の法則』を編集してみた。iPhoneアプリをつくろうと考えている方はもちろん、ものづくりに何らかの形で携わっている方にご覧いただければ幸いである。