漢字能力検定協会が実施する「今年の漢字」で、2009年の世相を表す漢字として「新」が選ばれた。新政権発足やイチロー選手などの新記録、新型インフルエンザ、環境や平和など新たな時代に向けた期待などが背景にある。

 そこで筆者は試しに、日本のIT業界を表す漢字を考えてみた。だが、残念ながら「沈」といった文字しか浮かんでこなかった。みなさんはどうだろうか?

 今年の漢字は、全国からの公募によって決まる。2009年は16万超の応募があり、トップテンには、「政」「改」「変」「民」「鳩」「代」「交」など、民主党による政権交代をイメージした漢字が並ぶ。政権交代後の舵取りには賛否両論あるものの、次の時代に向けた何らかの変化を期待していることがうかがえる。

クラウドが浮かんではいるものの

 さて、IT業界の2009年を表す漢字である。クラウドコンピューティングや仮想化といったキーワードから「雲」「化(ける)」などの漢字を考えなかったわけではない。

 だが、記者が主に担当してきた企業情報システムや同分野をターゲットにしたIT業界を考えたとき、どうしても「沈」以外の漢字が思い浮かばなかった。一言そえれば、単純に落ちていくというよりは周囲の伸びが目立ち、相対的に地盤沈下しているといったイメージだ。

 「沈」の背景として、いくつかの要因を考えた。クラウドコンピューティングの台頭がその一つである。米グーグルを筆頭に、黒船ならぬ“白い雲”が日本の空にも広がってきた。そのなかで、国内からは対抗馬たるサービスがほとんど見えてこない。

 むしろ、海外のサービスをどう使い、ビジネスに変えるかをベンダーが率先して進めているようにみえる。これでは、基盤技術はますます海外に抑えられてしまい、自らが進むべき道を決めることさえ難しくなる。基盤技術を外部に委ねた企業情報システムの構築・運用が、複雑かつ困難であることは、1980年代のオープン化以降、何度も経験してきたことではないだろうか。

ケータイ/モバイルと連携するのはいつ?

 携帯電話やモバイル環境を前提とした企業情報システムがなかなか増えないことも、要因の一つだろう。

 携帯分野では、米アップルのiPhoneに続き、グーグルのAndroidを搭載するスマートフォンなどが登場してきた。モバイル環境ではWiMAXによるサービス開始や、同機能を内蔵したノートPCなどが登場している。ところが、こうした機能/サービスを活用した企業情報システムが増えているという実感は得られない。

 新型インフルエンザ対策だけのためにモバイル環境を構築する必要はないかもしれない。それでもBCP(事業継続計画)や女性の社会進出、働き方の多様化など、今後のワークスタイルを考慮すれば、もう少しモバイル環境を前提にした企業情報システムが増えても不思議はないはずだ。

ITコスト削減で中堅・中小ベンダーが苦境に

 リーマンショック以降、利用企業が一斉に取り組んだコスト削減も、IT業界に大きな影響を与えている。2009年4~9月期の決算で、富士通、NEC、日立製作所のいずれもが減収減益だった。大手システムインテグレータのほとんども減収減益に陥っていた。業績回復の道筋も見えないという。

 大手の苦しい決算の裏側で、中堅・中小のITベンダーは、より苦しい立場に追いやられている。外注費が抑えられ、仕事が回ってこないからだ。積年の課題である“多重下請け構造”の解消と言えなくもないが、解消しようという意思をもっての動きではないだけに、そのしわ寄せは利用企業にも向かう。企業情報システムの将来を一緒に考えてくれる技術者が身近から消える可能性が高まる。

 すでに地方の利用企業の間では、新たな技術に詳しく、次の仕組みを考えてくれる技術者の不在が問題視されている。大手ベンダーが発注量の大きい顧客企業にリソースを集中させれば、その傾向は強くなるだろう。額の小さなシステムほどひな型化が進み、利用企業の選択肢は限られていく。新たなことにチャレンジしようという企業がいても、IT業界側が応えられないわけだ。