Windows 7がリリースされ,“Vista飛ばし”をしていた多くの企業がクライアントPCの買い替えをいろいろと検討しているに違いない。もちろん「今は買い替えを控える」とする企業も少なくないとは思うが,今後の計画も含め,何らかの意思決定をしなければならない。

 さて,クライアントを入れ替えるとして,企業は次にどんなクライアントを選ぶのだろうか。普通にWindows 7搭載PCを買うのか,シンクライアントに移行するのか,あるいは第3の選択肢を検討するのか…。

 「Windows 7搭載PC以外は眼中にない」という企業が多いと思うが,そろそろ別の選択肢にも目を向けてみてはどうだろうか。シンクライアントを導入している企業はまだ少ない。しかし,潜在需要は根強く,TCO(総所有コスト)や情報漏洩事件が話題になったころから脈々と続いている。それに加え,今年は新型インフルエンザのパンデミック対策として,在宅勤務にも適したシンクライアントに再び関心が集まっている。

 「シンクライアントは,これまで何度か注目された時期があったものの,本格的に普及するには至らなかった。しかし,今度こそ来るかもしれない。引き合いが確実に増えている」。10月末に開催したITpro EXPO 2009展示会の会場で,いろいろなベンダーにクライアントの動向を取材していたら,こんな声を聞いた。

 とはいえ,不況の影響は大きい。どのベンダーも「引き合いは増えているが,具体的な話になるまでには時間がかかりそう…」と少々歯切れが悪い。シンクライアント・システムを構築するには,サーバー,クライアントともそれなりの初期投資が必要なため,企業が敬遠しているのかもしれない。

初期投資が少ない第3の選択肢

 「初期投資が少ない」という点では,第3の選択肢として,仮想デスクトップ・サービスを検討してみてもいいのではないか。いわゆる「DaaS(Desktop as a Service)」だ。仮想デスクトップPC環境(あるいはアプリケーション)をDaaSベンダーのデータセンターで運用し,それをユーザー企業のシンクライアント端末から利用する形態のサービスである。シンクライアント・システムの一形態ではあるが,サーバーを用意する必要がないため,従来のシンクライアント・システムよりも導入しやすい。クラウド・コンピューティングの波に乗って,この種のサービスがいろいろと登場している。

 気になるのはDaaSの利用料金だ。利用できるリソース量やサービスの内容によって異なるが,既に提供されているサービスの料金を見ると,1台当たり月額6000~1万円くらい。これを4年間使うと想定すると,安くても1台当たり30万円近くになってしまう。DaaSによりクライアント管理が楽になる点を加味して評価すべきだが,それでも現時点では,セキュリティ対策やパンデミック対策を重視するような企業でないと,なかなか費用と効果がつり合わないだろう。

 しかし,クラウド・サービス全体の動向に目を向ければ,ソフトバンクテレコムのホワイトクラウドのように,使い方によってはAmazon EC2並みかそれ以下の料金で済みそうなクラウド・サービスも登場しており,低価格化が進んでいる。それがDaaSにも波及することは,十分に期待できるのではないだろうか。

 DaaSに追い風となる動きもある。例えばシトリックス・システムズ・ジャパンはこの12月に,仮想化ソフトの従量課金制ライセンスをサービス・プロバイダ向けに提供開始した。インターネットイニシアティブ(IIJ)グループが2010年2月に提供開始する「IIJ GIO 仮想デスクトップサービス」では,同サービスに組み込むデスクトップ仮想化ソフト「XenDesktop」などでこの新ライセンスを利用する。DaaSのユーザー数が増減しても,サービス・プロバイダはライセンス料を気にすることなく柔軟に対応できる。こうした施策がDaaSベンダーを増やす方向に働き,DaaSの選択肢を広げてくれそうだ。

 DaaSやシンクライアントにはまだ発展途上の面もあるが,技術や環境面で徐々に整備が進んでいるし,市場調査会社の多くはシンクライアント/デスクトップ仮想化市場の急成長を予測している。次期クライアントを現在検討中の企業はもちろん,「今は買い替えを控える」とする企業には,なおさら注目してほしい選択肢である。